読みやすい文章を書くための「おもてなし」
たとえばこんな文があります。
今家にいます。
そして、こんな文があります。
いま家にいます。
もちろんどちらも意味は同じです。「今、家にいる」ということが言いたいわけです。
ただ、どちらが早く伝わるでしょうか? どちらが正確に伝わるでしょうか?
そう考えてみると、前者の「今家にいます」は、ほんの一瞬、自分でも気づかないくらいですが、「今家」が、ひとつの塊に見えてしまうことに気づきます。
もちろん「今家」なんて言葉は一般的ではないので、普通に考えたらわかるのですが、本当に0.1〜2秒くらい「今家」という地名や苗字だと思ってしまう人が0人とは限らない。
なので、ぼくであれば後者のように、「今」をひらがなにして表記することを選ぶと思います。
このツイートの引用RTに、
提出出来ました。
と書いてきたスタッフに対して「この表記に違和感を抱ける意識を持ったほうがいいよ」と伝えた話をいただきました。
「まさに!」ですね。
読めばわかるのだけど、ほんの一瞬だけ読み手は「ん?」となってしまう。そこに気づくことができるか?
相手のことを考えて、一瞬で理解してもらうことを考えたら、ここはひらがなにするほうがよさそうです。
「ひらがなだろうが、漢字だろうが、同じ意味なんだから別にいいじゃん」というのもひとつの考え方でしょう。
一方で、これだけ情報があふれていてSNSで無数の言葉が飛び交う時代に、なるべくわかりやすく瞬時に伝わるように工夫することも大切なのだと思います。
それはある種の「おもてなし」です。
自分の都合ではなく、相手のことを考える。
ここには「、」が必要かな? 「。」が必要かな? ここは漢字がいいかな? ひらがながいいかな?
と考えることができるか? そうやって相手のことを考えることが「読みやすい文章」を書くことにつながるのだと思います。
脳に届けるのではなく、心に届ける
もう少しだけ話を進めます。
「私」という言葉と「わたし」という言葉。
意味は同じですが、与える印象は違います。漢字とひらがなの違いだけで、沸き起こる感情はほんの少しだけ違います。
「僕」と「ぼく」も同じです。
前者だとちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、きちっとした感じがある。(たぶん漢字だから。)後者だと、なんとなく日常っぽい感じがします。エモさが強い。人によっては幼い感じ、若い感じを抱くかもしれません。
同じ漢字でも、別の言い方をすると印象が変わるということもあります。
たとえば「企業」という言葉と「会社」という言葉。
前者の「企業」はわりと公式っぽくて、なんとなく冷たい感じです。「情報」に近い感じでしょうか。「会社」という言葉は、日常でよく使います。なので、日常の生活に近い。このほうが「エモい」気がします。
そういえば「ぼくらの会社」という言い方はしますが、「ぼくらの企業」という言い方はあまり聞きません……。
「経営者」と「社長」ではどうでしょうか?
「うちの社長がさあ」という言い方はするけど、「うちの経営者がさあ」というような言い方はあんまり聞きません。「社長」のほうがより身近な感じがして、感情が動く感じがします。
ぼくがSNSなどを通じて、多くの人に届けたいと思ったら「経営者」よりは「社長」、「企業」よりは「会社」という言葉を選びます。そのほうが「心に届く」気がするからです。
SNS時代に読まれる文章、伝わる文章を書くためには、ただ「意味」を伝えるだけではなくて、「感情」を動かす必要があります。
別の言い方をすると「脳に届ける」のではなくて「心に届ける」必要がある。
「企業」や「経営者」といった言葉はカチッとしています。よって、公式の文書や論理的に説明する場合などには有効です。きちっと脳に届けることができます。
ただ、さらに「心に届ける」のであれば、「社長」とか「会社」というような、ふだん使っている言葉のほうが伝わりやすい気がするのです。
もちろん個人差はありますし、一概には言えません。
言いたいのは、このようにほぼ同じ意味だったとしても「どういう言葉を使ったほうが心に届きやすいか?」を考えることが大切だということです。
その言葉に付随するイメージだったり、文脈、色みたいなものを敏感に感じ取ること。適切なときに、適切な言葉を選べること。それがSNS時代の文章術には大切なのかな、と思います。
どういう言葉を使えば相手に早く届くのか?
どういう言葉を使えば相手の感情が動くのか?
先回りして「おもてなし」をすることが、きっと読みやすい文章を書くことにつながるはずです。