「読みやすい文章」のたったひとつの条件
「読みやすい文章」ってなんだろう?
ずっと考えていたのですが、それは読み手が「読む速度」と「理解する速度」が一致するものだという答えにたどり着きました。
理解が追いつかない文章だと何度も読むはめになります。一方で、わかりきったことをくどくどと書かれるとイライラしてしまうでしょう。
読みながらスーッと脳に染み込んでいくような文章は「読みやすい」と言えるでしょう。
では「読む速度」と「理解する速度」を一致させるにはどうすればいいのでしょうか?
たとえばこんな文章があります。適切な例が思い浮かばなかったので、テキトーに国会の答弁書から引っ張ってきました。(ちゃんと読まなくてもいいです。)
労働政策審議会の各分科会の委員並びに臨時委員及び専門委員は、労働政策審議会令第三条において、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者並びに障害者を代表する者のうちから、厚生労働大臣が任命することとされている。
労働者代表委員及び使用者代表委員については、我が国の労使それぞれの代表的団体の意見を踏まえ、労働者及び使用者の利益を代表するにふさわしいかなど種々の要素を同大臣が総合的に勘案して、公益代表委員については、公益を代表するにふさわしい経験、識見を有しているかなど種々の要素を同大臣が総合的に勘案して、障害者代表委員については、我が国の代表的な障害者関係団体の意見を踏まえ、障害者の利益を代表するにふさわしいかなど種々の要素を同大臣が総合的に勘案して、適格者をそれぞれ任命している。
<出典>
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b196097.htm
はい。わかってます。よくわかんないですよね。
政治家や官僚のみなさんがやりとりするぶんにはこれでもいいでしょう。公的な文書なので読みやすさよりも正確性を重視しているわけです。
ただ、これは一般の人が読んでパッとわかるようなものではありません。「読む速度に理解する速度が追いつかない」文章だと言えるでしょう。
この文章をめちゃくちゃかんたんにすると
「労働政策審議会のメンバーは、厚生労働大臣が選びますよ」
ということ。そのうえで、
「どういう人の中から、どういう基準で選ぶのか」
が書かれているわけです。
ぼくなりに理解して整理してみると以下のようになります。
「労働政策審議会」の委員は、厚生労働大臣が任命します。
大臣は、委員を
・「労働者」を代表する人
・「使用者(経営者など)」を代表する人
・「公益」を代表する人
・「障害者」を代表する人
のなかから選びます。
「労働政策審議会令」の第三条に書いてあります。
どうやって選ぶかというと、
労働者を代表する人は、
まず、労働者の代表的な団体の意見を聞く。
そして「労働者の利益を代表するにふさわしいか」などを大臣が総合的に考えて選ぶ。
使用者も同じです。
公益を代表する人は、
「公益を代表するにふさわしい経験、学識や意見を持っているか」などを大臣が総合的に考えて選ぶ。
障害者を代表する人は、
まず、代表的な障害者関係団体の意見を聞く。
そして「障害者の利益を代表するにふさわしいか」などを大臣が総合的に考えて選ぶ。
専門家ではないので、細かいところは間違ってるかもしれませんが、大枠はこういった感じでしょうか……。枝葉と思われる部分をかなりカットしたので「正確」な文章ではないかもしれません。
ただ、後者の文章はある程度「読む速度」と「理解する速度」を一致させることができたのではないかと思います。
ぼくなりに「読む速度」と「理解する速度」を一致させるような文章を書くためのポイントを3つあげてみます。
①まずはきちんと理解すること
大切なのは、まず書き手がきちんと理解しているということです。たまに書き手自身が書く内容をぼんやりとしか把握していない場合があります。そういう人の書く文章が読みやすくなるはずがありません。書き手が理解していないものを読み手が理解できるはずがないのです。
読者の「既知」と「未知」を把握しておくことも必要です。読み手が「すでにわかっていること」か「まだ知らないこと」なのか。前者はスルーしてもいいですが、後者はきちんと説明する必要があります。
上記の例だと「労働者」はわかっても「使用者」はわからないかもしれない。その場合は「使用者(経営者など)」といった補足が必要です。
②ひとつずつ伝える
労働政策審議会の各分科会の委員並びに臨時委員及び専門委員は、労働政策審議会令第三条において、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者並びに障害者を代表する者のうちから、厚生労働大臣が任命することとされている。
上記は、ひとつの文であらゆることを言おうとしています。一度にすべて伝えようとすると読み手に情報がなだれ込んでしまい、理解が追いつかなくなります。上記の文を分解すると、以下のことを言っています。
・委員は大臣が任命する
・それは労働政策審議会令第三条に記されている
・委員は労働者、使用者などの代表者のなかから選ぶ
伝えるときは、ひとつずつ伝える。それだけで理解が追いつく「読みやすい」文章になるはずです。
③情報の濃度に気をつける
①②と若干カブりますが、もうひとつは「情報の濃度に気をつける」ことです。ちょっと感覚的な話なので、例を入れます。
労働政策審議会の各分科会の委員並びに臨時委員及び専門委員は、労働政策審議会令第三条において、労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者並びに障害者を代表する者のうちから、厚生労働大臣が任命することとされている。
これは「濃い」文です。コーヒーで言えば「苦い」文章。ゴクゴクは飲めません。そこで、余計な雑味をカットして、濃度を下げるわけです。
「労働政策審議会」の委員は、厚生労働大臣が任命します。
(労働政策審議会令の第三条にもとづくものです。)
大臣は、委員を
・「労働者」を代表する人
・「使用者(経営者など)」を代表する人
・「公益」を代表する人
・「障害者」を代表する人
のなかから選びます。
単純に「ひらがな・カタカナ・漢字のバランス」「改行」「余白の使い方」に気をつけるだけでも密度・濃度を変えることはできます。「もとづく」「なか」といった言葉もひらがなにするだけで印象がゆったりします。
区別してわかりやすくするためには「」を使います。ただし使いすぎると「」だらけになってしまうのでほどほどに。また、箇条書きも効果的に使えばわかりやすくなります。
きちんと理解し、ひとつずつ、情報の濃度に気をつけながら伝える。そして「この文章は読み手の理解が追いついているかな?」とつねに考えながら編集していくと読みやすい文章に近づけることができるはずです。