企業が発信する文章は、誰も読まない
と、いきなり吊りタイトルですみません。
なのですが、「文章を読んでほしい!」と思うのであれば「そもそも文章なんて誰も読まない!」という前提に立つことは、けっこう重要なことだと思っています。
そんな話をします。
「誰も読んでくれない」を前提にする
僕が出版の世界からビジネスの世界に出てみてちょっとだけ驚いたのは、多くの人が「読んでくれる」という前提で情報発信しているということでした。
プレスリリースだったり、社員インタビューだったり、社長とタレントとの謎の対談だったり……。
その多くが読まれていない。
話題になっていない。
もちろん「媒体に出ること自体がブランディングになる」という面もあると思うのですが「読まれているかどうか?」「届いているか?」という観点からすると、ちょっと厳しいなと思ってしまうわけです。
本の編集者は日々「読まれない」と戦っている
本の編集者の多くは、売れない本を作った経験があります。
最初は当然「これは話題になるぞ!」「売れるぞ!」と思って作るわけですが、いざ蓋を開けてみると、ぜんぜん売れない。
「なんで売れないんだ!」「こんなにおもしろいのに!」という悔しい経験を積んでいくなかで、だんだん「もしかして、これ、誰も読んでくれないんじゃないか……」と思うようになっていき、いつしか編集者は「誰も読んでくれない」という前提で考えるようになります。
「無関心の人にいかに関心を持ってもらえるか」をすごく考えるようになる。すると結果として、売れる本、読まれる本が作れるようになります。
もちろん普通の事業会社はコンテンツを生業にしているわけではないので厳しい話ではあるのですが、読者からすれば関係ありません。出版社の発信だろうが企業の発信だろうが関係ない。
あらゆるコンテンツが横並びになっていく中で「企業の発信」を届けるのは難しくなる一方です。ただ裏を返せば、きちんとコンテンツになっていれば読まれるということ。実は企業にとってはチャンスでもあるのです。
「企業側の都合」で考えている限り届かない
僕が日々クライアントに伝えているのは「企業の発信というのは、思っている5倍くらい届かないですよ」ということです。
だからなるべくわかりやすく、面白くしなければいけません。
そう言い続けても企業の発信がなかなか面白くならないのには原因があります。それは「企業側の都合」で発信を組み立てているということです。
社員を紹介したいから社員を紹介する。事業を紹介したいから事業を紹介する。成功例は出したいけど失敗例は出したくない。事例を出すのはいいけど固有名詞は出したくない。これを言うとあの部署に角が立つ。あれを言うとあの人に角が立つ……。
それらは全部「企業側の都合」です。
これでは永遠に届きません。
軸足を「受け手側」に置こう
企業の発信は、たいてい軸足が「発信者側」にあることに気づきます。
「サービス開始のお知らせ」「こんな事業を始めます」「資金調達しました」「採用強化中です」……これらはすべて、企業側・発信者側が軸足です。
これは、しょうがないことなのかもしれません。編集者と違って、企業の中の人はずっと同じビルで1日を過ごしています。しゃべる人も同じ会社の社員だったり、上司だったりする。基本的には自分の会社に関係のある人としかコミュニケーションをとっていないわけです。
だから、軸足がどうしても「企業側」になってしまう。その状態で「読者のことを考えよう」というのは、構造上なかなか難しい。
ただ何度も言うように、それが普通だからこそ、読者側に軸足を置くだけで他社とは一線を画した発信ができるのです。
あなたが読まないものは、他人も読まない
「面白くする」と言っても、どれくらい面白くすべきなのでしょうか?
基準としては「あなたが」面白いと思うコンテンツを発信することです。
企業の発信になると、なぜか「とりあえず書いたから読んでください」というスタンスになってしまう人は多くいます。「公開すればみんな読んでくれるはず」と思ってしまう。
そんなわけはありません。
「あの人、一生懸命書いてるから読んであげよう」という人は残念ながらいないのです。
僕はレストランを例に出して、こんな話をします。
レストランでは「シェフ自身が」おいしいと思う料理が出てきます。「おいしいかはわからないけど、どうぞ」「味見してないけど食べてみて」と言って料理を出すレストランはありません。
同じようにコンテンツにおいても、自分が面白いと思えるものを出すべきなのです。「はたしてこれは自分が読者だったら読むだろうか?」「僕が読者だったらこれを面白いと思うだろうか?」 そう考え始めた瞬間から、コンテンツの魅力はグッと上がっていきます。
ターゲットは「あなた」だ
「誰をターゲットにすればいいでしょうか?」という質問もたまにありますが、僕がコンテンツを作るときには「自分」というターゲットに届けることしか考えていません。
それで十分です。
むしろ自分が「これは読む」というものができれば8〜9割はカバーできているはずです。
人それぞれ感じ方に多少の差はありますが「わかりやすい」とか「面白い」と思う人の感性は8〜9割被っている実感があります。僕が面白いと思ったものは僕以外の人も面白いと思うはずなのです。
逆に「自分は読まないけど、あの人なら読むんじゃないか」「自分は面白いとは思わないけど、こういう人なら読むんじゃないか」という姿勢でいると、誰にも届かなくなる危険性があります。
まず「文章なんて誰も読まない」という前提に立つこと。そのうえで「自分だったら読む」というものを書くこと。
このスタンスを取ることで発信のパワーはまったく変わってくるはずです。
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お知らせ。
この5年間、編集者である僕が「企業の発信」をお手伝いするなかで得てきた知見をまとめた本ができました!! 「もうこれ以上書くことはない」というくらい事例とノウハウを詰め込んでいます。
ぜひご覧いただけるとうれしいです!!
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