【受験ノート】東京農業大学

 東京農大(東京農業大学)は「稲のことは稲に聞け。農業のことは、農民に聞け」をモットーにしていて、「人物を畑に還す」が建学の理念です。徹底した実学主義で、学問の理論を追求し、究めようとする学校ではありません。

 東京農大の本部は世田谷にあります。小田急線の経堂駅から、15分ほど歩いた、住宅街の中に、それなりに緑もあるキャンパスが広がっています。「もやしもん」のモデルになっている発酵食品のエキスパートの先生は、このキャンパスにいます。菌株保存室があって、細菌・酵母・カビなどを保存して、学内外の研究者に頒布し、サポートしています。

 東京農大の看板学科は、応用生物科学部の醗造科学科です。醸造を専門に学べる学校は、ここだけです。微生物の発酵によって、味噌・醤油・酢と云った、我々に必要な食品を作り出しているわけです。食品ではありませんが、酒を造ることが、「発酵」の一番、重要な大きな仕事だと云う共通認識は、醸造科学科の先生や学生の間では、share されています。日本各地の有力な蔵本には、OBがいて、学生は蔵本で宿泊しながら、実習をします。通常の授業で酒を造り、利き酒の訓練もします。利き酒ができなければ、酒は造れません。仕事として、利き酒をするのと、楽しみとストレス発散のためにアルコールを飲むのとでは、心構えは違いますが、美味いものは、やっぱり美味いんだろうと想像できます。

 応用生物科学部には、栄養科学科があります。ここは、管理栄養士を目指すための学科です。栄養系の学科は、主に女子大にあります。男子が管理栄養士を目指すとしたら、やはり東京農大の栄養科学科です。専門学校でも、管理栄養士は目指せなくはないんですが、合格率はかなり下がりますし将来のいろいろなことを考慮すると、やっぱり大学の方が望ましいです(専門学校に4年開通って、管理栄養士の試験に落ちたら、あまりにも費用対効果が悪すぎます。専門学校を卒業して、栄養士として仕事をしながら、管理栄養士の試験を受けることは可能ですが、受かりません。現役時代に集中して勉強しておかないと合格できないんです)。男女共学とは言え、女子の方が圧倒的に多いので、マッチョ系ではなく、お姉系の方が向いていると思います(まあ、近頃、マッチョ系とか見たことがないので、心配ないとは思いますが) 。

 国際食料情報学部は、今、流行の「国際」と「情報」を農業方面に応用した学部です。たとえば、国際農業開発学科は、熱帯地域の農業開発の研究をしています。3年次には宮古島(亜熱帯)での農業開発実習が必須です。食料環境経済学科でも、国内外の実習は必須です。国際バイオビジネス学科は、今、トレンディなバイオですから、留学生も沢山います。語学とIT教育に力を注いでいる点は、文系の国際系と同じです。と云うか、国際食料情報学部全体が、文理融合型の学部です。これも、最近のトレンドです。当然かもしれませんが、英国社の文系の科目で受験できます。

 地球環境科学部は、つまり森林系と造園系です。森林系は、奥多摩に演習林があって、暑い夏に、集中実習があります。森林系も造園系もある意味、ガチンコ系です。私の親友は、農家の息子ですが、
「林業は本当に辛い、それに較べたら、農業の方が、ずっと楽だ」と、彼は言ってました。林業が仕事場が山ですから、そこにアプローチするだけでも、正直、かなり大変です。

 造園系ですと、扱う石の重さがハンパない重さです。重機も使いますが、手作業で運ぶ石も沢山あります。造園科学科は、里山での自然体験、植物の努定や刈り込み、植栽デザイン、造園計画などを学びます。K高校時代の担任時代、Tくんと云う男子が、この学科に進学しました。高校時代は、ゲームばかりしていましたが、大学に行って、明らかに変わりました。
「本当に楽しい。学校が面白い所だと、はじめて解った」と言ってました。造園系だと、まあ、今でもここだろうなと言う気はします。

 農学部は、世田谷ではなく、厚木にあります(厚木駅からパスで20分)。研究実験実習所や、ビニールハウス、温室などは、さらにその奥の伊勢原農場にあります。農学部には畜産科もあって、キャンパスは一応、厚木ですが、富士山の麓に乳牛、肉牛、豚、家禽などを飼育していて、実習は富士山の麓まで出向くことになります。

「銀の匙」と云うマンガは、高校が舞台になっていますが、高校生があそこまではやれる筈はないし、大学の農学部の世界を、高校を舞台にして展開しています。「銀の匙」と「もやしもん」を読めば、農大がどういう文化世界なのか、つかめます(と云うか、農大志望の生徒は、おそらく読破済みだと思います。もっとも「銀の匙」は、作者の荒川弘さんが、アルスラーン戦記などで忙しく、現在、中断しています)。

 厚木のキャンパスには、収穫した食材を調理するアグリキッチンがあります。アグリカルチャー・キッチンの略でしょうが、ネーミングがたいしてイケてないのも、農大っぽい感じです。

 生物産業学部は、北海道の網走にあります。いわゆるオホーツクキャンパスです。東京農大のルーツの学校を創設したのは、五稜郭に立て龍もった、榎本武揚です。榎本武揚には、北海道で新しい農業をはじめると云う思いがあった筈です。榎本武揚のアイデアは、札幌農大にぱくられて、そっちが先にできてしまったわけですが、まあそういう伝統と云うか、流れの中で、札幌のような北海道の中心部ではなく、北海道の僻地の網走にオホーツクキャンパスを設置したんだろうと、私は想像しています。

 K高校時代の教え子のR子が、オーツクキャンパスに行きました。とにかく、まずオホーツク海に沈む夕日が見たいと言ってました。これが、志望動機の一番だったかもです。網走から時々、手紙を書いてくれました。「流氷を一度、見に来ませんか。車にはスノータイヤを装備してますから、車で案内しますよ」と、冬が来る度に誘ってくれました。残念ながら流氷の頃は、学校の仕事が忙しく、出向けませんでした。北海道には何回か行きました。オホーツクに沈む夕日は見ましたが、流氷は見てません。退職したら、まだ体力のある内に、青春18切符で、流氷を見に行くのもありかなと思っています。

 農大と言えば、大根踊り。私の担任クラスから、何人か東京農大に進学しましたが、誰一人、大根踊りは踊れません。有名ですが、一般学生とは、まったく無縁のアトラクションのようです。オホーツク校のバイトのメジャーは、ホタテの養殖。水が冷たく、とんでもなく辛いと言ってました。が、学生の頃、辛いことを経験しておけば、社会人になって、何だって積極的にやれます。3年になると、どこも研究室に入って、研究活動のアシストをするわけですが、それに没頭していると、就活が疎かになります。ある程度、バランス良く、要領良く動くことも、必要です(これは東京農大に限らず、どこでも同じことが言えますが)。東京農大には、地方の豪農の息子が、お嫁さん探しのつもりで進学したりしてますから、地方に行く気があれば、玉の輿とかも、全然、ありです。

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