無酸素系トレーニングについて
陸上の短距離選手やアメフト選手のように短時間で大きな力を発揮する競技では、無酸素系のトレーニングが行われます。
今回は無酸素性のエネルギー供給経路についてと、トレーニング効果についてまとめてみました。
無酸素性エネルギー供給経路
人が活動するとき、必ずエネルギーが必要となります。
その中で筋収縮に必要なエネルギーは筋細胞内にあるアデノシン三リン酸(ATP)から放出されるエネルギーによってまかなわれます。
しかし、筋細胞内にあるATP貯蔵量は少ないので、常に再合成されています。このATP再合成のためのエネルギー供給経路をエネルギー代謝経路と呼びます。エネルギー代謝経路は無酸素的代謝経路と有酸素的代謝経路に大別されます。
これらの経路は、エネルギー供給スピードの速いものから順に、
①フォスファゲン系(ATP-PCr系)
②速い解糖系(無酸素的解糖系)
③遅い解糖系(有酸素的解糖系)
④酸化(好気的)機構
の4つに分類されます。
このうち、①フォスファゲン系(ATP-PCr系)と②速い解糖系(無酸素的解糖系)は、反応過程で直接酸素を必要としないため無酸素性エネルギー供給経路と呼ばれています。
今回は①と②のATP供給経路についてまとめていきたいと思います。
フォスファゲン系(ATP-PCr系)
体内にあるATPの総量は約85gと推定されており、これは強度の高いエクササイズを最大努力で継続すると数秒で枯渇する量です。
このATPを再合成するエネルギー代謝経路のうち、最も供給スピードが速いのがATP-PCr系(PCr=クレアチンリン酸)です。
クレアチンリン酸はクレアチンキナーゼという酵素により触媒され、クレアチンとリン酸基に分解され、この反応に伴いATPが再合成されます。
しかし、細胞内のクレアチンリン酸の量を考えると、5~10秒の高強度のエクササイズで使いつくされます。そのため、5~10秒程度の最大努力を求められる50mスプリント、1プレーが短い競技などでは重要なエネルギー供給経路です。
速い解糖系(グリコリシス・乳酸系)
フォスファゲン系を引き継ぐ形でエネルギー供給の割合が高まるのが速い解糖系(乳酸系)です。
これは血中グルコースや筋グリコーゲンなどの炭水化物を分解する過程で得られエネルギーをATP再合成に利用するシステムです。
グルコースを変換する過程で生じたピルビン酸を無酸素的に分解する経路が速い解糖系(グリコリシス)です。その最終過程で乳酸が産生されることから、別名乳酸系とも呼ばれます。
(もう一つグルコースを分解して産生されたピルビン酸をミトコンドリアに運んでエネルギーを産生する遅い解糖系もありますが、今回は割愛します。)
筋細胞内のグルコースはフォスフォフルクトキナーゼ(PFK)と呼ばれる酵素により触媒され最終的に2つのピルビン酸を生成します。
ピルビン酸はさらに無酸素的に分解され乳酸を生成します。
この一連の反応過程で得られるエネルギーによってATPが再合成されます。
無酸素性トレーニングの効果
無酸素性のトレーニングをする場合には、標的となるエネルギー供給経路によって運動強度や継続時間が異なります。
一般的には、ATP-PCr系に的を絞るには10~30秒間のオールアウトエクササイズ、速い解糖系に的を絞るには30~120秒のオールアウトエクササイズです。
この際、休息時間が重要です。
各エネルギー供給経路がリカバリーする必要があり、長すぎても短すぎても効果的なトレーニングになりにくいです。
ガイドラインでは、ATP-PCr系では30~90秒(エクササイズと休息比が1対3)、
乳酸系では60~240秒(1対2)が良いと言われています。
ATP-PCr系では受動的かつ非活動的である方がよく、
乳酸系では能動的で活動的な方が乳酸の除去が早まって効果的と呼ばれています。
無酸素性トレーニングの効果には、1つにエネルギー基質の増加が考えられています。
現状ではフォスファゲン系のトレーニングによるフォスファゲン濃度の増加については明確な結論は出ていません。
しかし、クレアチンリン酸、クレアチン量の増加やウエイトトレーニングによる筋量の増加を伴ったフォスファゲン濃度上昇は報告されています。
いかがでしたでしょうか。
何か1つでも学びになることがあれば嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。