#76 練習相手がいない?

私は今、たった1人暗い幕間の後ろで目を閉じ胸の前で手を組み祈りを捧げている

一体、何に、誰に祈りを捧げているかはわからない

只々、無心になりたかったのかも


すると大音量でギターのカッティングが鳴り出す
そして2小節でボーカルが入る

もうすぐだ

落ち着け


荒々しいギターのカッティングと美しくポップなメロディー
最後の小節の最後の音でベースとドラムが入りブレイク


「っしゃあぁぁぁーー!!」

今だ!!
私は幕を飛び出し遥か遠くに感じる日本武道館の中央に鎮座するリングに向かって花道を走り出した










連続プロレス小説
「たまちゃん」(仮)

最終章

開幕









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デビュー戦が日本武道館だと告げられてから一週間経ったが実際のところ何も決まっておらず本当に実現するかどうかというか次の大会をやるかも怪しい状況であった

すぐに次の日に夢子さんにも報告したが
「流石にそれは無理だからあんま社長の言うことは間に受けないの!」
と全く相手にされなかった

だが練習はデビューに向けてより過酷になってゆく

夢子さんが知り合いのインディーの男子レスラーを呼んでの合同練習も始まった

どうしても人数は足りない
夢子さんが私の練習相手になってくれても私が夢子さんの練習相手にはならないのだ

もちろん当然のことである

なので私も男子選手に指導されたりぶん投げられたりとよりハードに

夢子さんの練習も見学させてもらっているが男子にも負けない気迫、テクニック、パワー
本当に凄いプロレスラーなんだと改めて思い知らされる日々だ


「それでは夢子さんありがとうございました!失礼しますっ!」
男子の皆さんが頭を下げ帰られて行く

「ありがとね!また明日もよろしくね!」

レスラー歴も長い夢子さん
練習に参加されてる方々は後輩である

だが筋骨隆々で夢子さんより大きな人たちがペコッとしているのを見ていると少し面白くもありそれが夢子さんの歴史なんだと痛感させられる


「ふーっ、だいぶ慣れてきたけど流石に男子選手との練習は堪えるわぁ」

「あ、夢子さん!お疲れ様です」

私は水のペットボトルの口を開け夢子さんに手渡した

「お、サンキュー!」
そう言ってすぐにゴクゴク飲み干す

「生き返るぅー!まぁでも2年弱ブランクもあるしこれくらいやらないとベルトに失礼だもんなぁ」

「いや、でもやっぱ夢子さん凄いですよ!全然、当たり負けとかも感じられませんし!」

「うーん、どうだろ?たまが言うように当たり負けはしてないかもしれないけど当たり勝ちしないと意味ないかな。フィジカルの差はどうしても出ちゃうけどさぁ、、、いやいやそのフィジカルの壁をブチ壊さないとね。まだまだ課題は多いな。あ?!それよりアンタはどうなのよ?」

「あ、ハイ!正直着いて行くのがやっと、、、ですぅ」
しょぼーん

「まぁそうだよねー。でも男子との基礎練をこなしていけば絶対に体幹は他の選手に負けることはなくなるはずだからまずはそこだな!彼らも今週いっぱいだから歯を食いしばってでも必死に着いてけ!わかった?!」

「ハイッ!ありがとうございます!!」
ペコリ

「あぁ、早いうちに次の人たち探さなきゃなぁ。大変」

夢子さんは練習の合間にも電話で練習相手のブッキングの交渉もしているがなかなかスケジュールが合う人もいないのか電話を切ってしょぼんとしている姿も見受けられた

真琉狐さんも3ヶ月の出場停止
練習は出来るだろうがもう少し時間はかかるだろうし一番夢子さんが望むであろう実践練習となると会社と医者のOKが出るとは思えない

亀さんもレスリングのスパーリングや決めっこは出来ても実践練習となると流石に引退されてだいぶ時間が経つし

私が強ければ、、、

悔しいが私自身がプロテストは受かったとはいえプロでも練習生でもない曖昧なポジション
名乗り上げる資格すらないのは重々自覚している


「こうなったらやっぱ出稽古しかないかぁ。亀ちゃんどっかない?」

亀さんは難しい顔をしながら
「うーん、そうだなぁ。やっぱ、ちづるのとこしかないんじゃない?いろいろ関係性や交通の便考えたら」

「ちづる、、、ちづるのとこかぁ。で、どんな感じなの今あそこ」

「スター選手が大量離脱して今は若手中心みたいだよね。ちょっとずつは上向きにはなってるみたいだけどね」

「若手中心かぁ。それだとこっちが面倒見てるのと同じだからなぁ」
夢子さんは顔を顰め頭をくしゃくしゃくしゃと掻く

「もう近くの大学のレスリング部かラグビー部からバイトで引っ張ってくるしかないかぁー。会社でバイト代出してくれないかなぁー」

「夢ちゃんそれは無茶苦茶だよ!いくら屈強な人間だからってプロレスの受け身取れなきゃ怪我させちゃうよ!それに社長もバイト代なんて出さないと思うよ!」

「あーもう!手詰まりだ!また明日、一から交渉だ!帰るっ!」

「あ、そうだ!夢ちゃん!暫くの間ウチの軽貸してあげるよ。足ないと不便でしょ?そっちはあんま乗ってないからさ」

「えー!本当にぃー。助かるぅー」

「いいよいいよ。もう今日乗って帰りなよ」

「やったー!もうあんま必要ないかと思って手放したけどこんなに道場と往復になるとやっぱ不便でさぁ。いこいこ、早く亀ちゃん帰り支度して!」

大喜びの夢子さんは亀さんと肩を組んで小躍りするように道場を出て行った


「まぁそうだよねー。営業とかも電車じゃ大変だもんね」

じゃあ私もお風呂入ってご飯作りますかねー
って!!

「もぅっ!!散らかしっぱなしじゃあぁぁーん!!」

嬉しさのあまりか何も片付けずに夢子さんは亀さんと帰っていった

「うーっ、雑用係は辛いぜ!」
まぁ当たり前のことだ
早く片付けてゆっくりしよう

「うーん。さっきの話に出てきたちづるさんって人、、、2人の関係性からいったら、、、やっぱ、、、小鳥遊ちづる、、、だよね?、、、てことは、、、練女??」

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