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#94 きょろろん、入場「オレたち」

そんな勝者の背中を見送った私だったがふと見るときょろろん選手は「よしっ!よしっ!」と小さなガッツポーズをとり自分自身に気合を入れていた

そうだよ恐いよ
恐くてたまんないよ夢子さんと対峙するんだもん
恐くないはずないよ

英実さんの話を知るきっかけになったあの時
プロテストで対角に立った時
いや日々の練習でもいつだって夢子さんの目の前に立つ時は体が震える

それが初めて会うだろう夢子さんと闘わなくてはいけないなんてきょろろん選手の内心を思うと、、、
いや、そう簡単に計り知れるモノではないのかも知れない

知らず知らずに私は下を向いていた


すると場内アナウンスが!

「本日の第四試合メインイベントなのですが許可の無い方の写真の撮影は一切禁止とさせていただきます」

「えーっ?!」
という声が飛び交い会場内はざわざわざわつく

「もし見つけた際にはデータの削除及び今後の練馬女子プロレスの大会において永久の出入り禁止処分とさせていただきます。SNS上へのアップも同様の処分とさせていただきますのでご理解ご協力の方よろしくお願いします。ただ文章でのSNSへのアップは通常通りとさせていただきますのでいつものように上げていただき拡散等盛り上げていただければと誠に勝手ながら思っております。それではお待たせしましたメインイベントを開始します!!」

随分と厳重なんだなあと思っていたら
ハイハットのカウントから曲が始まった
なんとなくだがUNIの入場曲に雰囲気が似ている気がする

「UNIがね、今日の為にこの曲を選んでくれたんだぁ」

「え?!」
思わず顔を上げる

「絶対にきょろろんさんの勇気になるって」

「、、、そうなんですね」

「それで昨日の夜にね、一人で歌詞見ながら聴いてたらわんわん泣いちゃって、、、私が伝えたいことがいっぱいこの曲に詰まっててね、、、ほんとすごく仲間想いで優しいんだぁUNIって、、、」
そう言いながらきょろろん選手の顔は試合前なのにぐにゃぐにゃに

「たまえさん、、、ですよね?名前」

「ハ、ハイッ」

「たまえさん、夢子さんって強いですよね?」
もうきょろろん選手泣きそうだよぉ
でも私は

「ハイ、強いです!強すぎると思います!そして半端なく恐いです!」

別に意地悪やビビらせる為に言ったわけじゃない
本当のことを伝えるべきだと思った

きょろろん選手のパーソナルは正直わからない
でもちづるさんや社長さんそしてUNIの想いを背負ってプレッシャーや自分の殻というものをぶち壊して夢子さんに向かって欲しいと会ったばかりなのに勝手にそう思ったんだ

でもやっぱこういう時って人は普通励まして欲しいものなのかなぁ?
ちょっとでしゃばってしまったのかなぁ?
急に不安に陥りそーっときょろろん選手の顔を覗き見る

するとさっきまでぐにゃぐにゃの表情がみるみると闘うプロレスラーの顔に
そして

「たまえさん、ありがとう。たまえさんって正直な人なんですね」

「え?あ、いやぁ、、、ど、どうなんでしょうか?あ、アハハ」
疑問系で返してどうすんだ私

「私、プロレスが好きなんです!好きって気持ちがあればプロレス、、、ずっと続けていいですよね?」

「ハイッ、私もプロレスが大好きです!!」
答えにならない私の答え

でもきょろろん選手は丸い顔をさらに丸くさせ私に笑顔を向けてからゲートを飛び出した
きっと覚悟を決め吹っ切ったんだ

そうだ!
そうなんだよ!
好きな気持ちが続く限りずっとやり続ければいいんだよ!

飛び交うきょろろんコール
きっと彼女は自分で気付いていないだけでこの会場の全ての人間に愛されているのだ

なーんて後輩のデビューもしてない私が偉そうにね


「青コーナー!ほんわか笑顔の人気者ぉぅ、きょろーろぉーんっ!!」

幕間からコッソリ覗く
一番遠くにいる私とリング上のきょろろん選手の目が合った気がした

「がんばれ、きょろろんさん!!」
小声で呟いた


カツッ
カツ、カツ

コール後の声援が落ち着いた一瞬の静寂に響く靴音


ゴクリッ
思わず唾を呑み込む

そうだ!
ここからが本番だ

「お疲れ様です!お願いしますっ!!」
ペコリ

夢子さんがちづるさんと降りてきた


私は今まで知ったつもりだったんだ
プロレスラー雨宮夢子という人を

夢子さんはゆっくりと首を回し手首と足首をぶらんぶらんとほぐしていく

眼光は鋭く恐ろしいほどの闘気を放つ


そして幕裏の暗闇に立つ夢子さんの目だけではなく体中から放たれる闘気で周りの空気が震えてる気がしたんだ


※この曲で勇気を出して入場しているきょろろん選手を想像してみてください

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