#88 いざ!練女道場へ

「し、試合ーーっ!!」
当然の如く3人の声が合わさる

「うん、まぁなんだろ?義理というか営業というか。真琉狐の件で迷惑も掛けちゃってるし向こうの現状も知っときたいってのもあるしさ。ちづるともちょっと話したいし」

「それにしても急過ぎない?ビックリだよ」

「元からオファーがあったのは知ってたけど最後のダメ元みたいな?まぁ私もどこかで試運転出来ればなとは思ってたからね。まあいいんじゃないかと」

「で、誰と?」

「まだ確定してないけど中堅辺りの選手とのシングルみたいだね。完全シークレットみたいでXとして。明日の昼くらいには発表するみたい。集客考えたら私の名前出してもいいですよとは言ったんだけど道場マッチでそこそこはチケットも捌けてるみたいだからサプライズの方が面白いんじゃないかって。記者も来ないみたいだから余計にプレミア感も出るし」

ウオォーッ!
熱い!熱すぎる!!
初めて夢子さんの試合を生で観れるなんて!
さっきまで悔しかったり嬉しかったりで泣いてたのに本当に私は現金なヤツだよ

するとイザネちゃんが
「だったらウチも連れてって下さい!ウチも夢子さんの試合観たいです!」
と訴える

「いやいやアンタこそまだウチのトップシークレットなんだから連れてけるワケないじゃん!公式発表までは大人しくしてもらわないと困る。それにアンタの方向性についても近いうちに話し合わなきゃなんだから頼むよ!」

イザネちゃんは黙ってうなづいた

方向性?
なんかあるのかな?

「ま、てことなんで明日はそれぞれよろしく!亀ちゃんは学校のなんかでしょ?」

「そだね。明後日また来るよ」

「よしっ!じゃあ片付けてご飯行こ!」


そして夢子さんの運転で駅前の居酒屋へ
夢子さんは店に入ってからお酒を飲めないことに気付き美味しそうにお酒を呑む亀さんとイザネちゃんを羨ましそうに見ていた

私は寮に戻ってからも興奮が冷めやらずにいた
きっと夢子さんの背中にヒントがあるはず
それを絶対に見逃すワケにはいかない

「なんか私が緊張してきたなぁ、、、」

まあそれでもシャワーでサッパリした体、美味しいご飯、練習の疲れ、いっぱい涙を流したお陰で少しはスッキリとした心
ベッドに入った瞬間にはイビキをかいていた





次の日の練習は予定通り14時に終了
私は急いでシャワーを浴びて用意する

夢子さんは午前中にウォーミングアップを済ませもう全ての用意は終わらせていたみたいだ

そしてキッチンで

「夢子さん!グッズとかは積まないんですか?」

「あー。今日はシークレットだからいいよ」

「なんだよお前、ちょっとでも小銭に変えて来いよ!」
自分でお茶を淹れていた社長が口を挟む

「シークレットで行ってグッズ売ってたらカッコ悪いじゃないですかぁ?!」

「はいはい、えろすみませんどしたなぁ。あぁ怖い怖い」
多分間違っている京都弁で腰を丸めて社長は出て行った

「もぅ!社長は全くレスラーのブランディングをわかってないんだからぁ!じゃあ行くよ!」
そう言ってツカツカと階段を降り始めた

「あ、ハーイ!待ってくださーい!!」


道場に降りるとイザネちゃんが恨めしそうに私を見た

「いいなぁ。たまちゃあぁん」

「えへへ、いいでしょう。イザネちゃんの分までがんばってくるからね!」

「わかったよ、じゃあ気をつけてね!夢子さぁん!いってらっしゃい!」

「おう!」

私と夢子さんは道場を出て車に乗り込んだ





30分ほどで到着

「意外と近いんですね」

「まあウチも一応は東京都だからね、、、あ、そこだったな駐車場」
ハンドルを右に切る

練女がいくつか借りている駐車場に停める
横には練女のロゴ入りのバンが駐車してあった

「リュック持ちます!」

「あ、ほんと。ありがと」

夢子さんのリュックを背負い両手に備品の入ったトートバッグを持っていざ練女道場へ

「なんかアンタ鼻息荒いね!昨日は泣いてたのに」

「えー!はわっ!もぅ!恥ずかしいから言わないでくださいよぉぅー」

「ハハッ、ごめんごめん!なんか私より気合い入ってるからついね!あ、そこ右ね!」

「街道沿いなんですか?」

「周り住宅多いけどでかい道路沿いだと車の音が逆に都合いいんじゃない?しらんけど。ああ、ああ、アレ、アレ!」
夢子さんが指差す

あーアレが練女の道場かぁ
って、ん?
誰か前に立ってる

その女性の黒髪のセミロングはハーフアップされパリッとした白シャツを黒のフレア調のパンツにタックインして清潔感と凛とした大人の雰囲気を醸し出している

「おーい!ちづる!久しぶりぃ!」

え?あ?この人が小鳥遊ちづるだぁ
復帰されてからの映像はほとんど観た記憶がないので私の中ではそれ以前のヤンチャなイメージであった
でも確かに女優さん顔負けだ
薄めのメイクなのに毛穴を感じない
すごっ!
私は昨日、ニキビを潰したばっかりだ(関係ない)

ちづる選手はこちらに気付き深々とお辞儀し
「夢子さん!本日はわざわざお越しいただきそして出場してくださり本当にありがとうございます」

「なに言ってんのよ!堅苦しいのやめて!私とアンタの中でしょ?!それにこっちだって真琉狐の件で迷惑も掛けてるし」

ちづる選手はここでようやく頭を上げ
「そう言ってもらうと助かります」
そう言って夢子さんに笑顔を見せた

「ん?で、こちらはセカジョの新人さん?、、、えーっと、たしかぁ?あ、たまえさん?!」

えーー!!
ちづる選手にまで知れ渡ってるなんてよっぽど業界視聴率が高かったんだなぁあの試合
自己紹介の手間が省ける
い、いやぁでもみんな「TAMAE」で覚えてるのかぁ、、、トホホだよ

「あ、はじめまして。全世界女子プロレス新人の都並、、、た、たまえですぅ、、、」
ペコリ
だが重いリュックと両手に重いトートバッグを持っているのでなんかだっふんだ言った後みたいな体勢になってしまってカッコ悪い

「こちらこそはじめまして!練馬女子プロレスの小鳥遊ちづるです。よろしくお願いします。元々はたまえさんのセカジョの先輩になるのかな?今日はセコンド?がんばってね!」

「あ、ハイ!ありがとうございます!がんばります!よろしくお願いしますっ!!」
もっかいだっふんだでペコリ

ちづる選手からほのかに漂う甘い香り
あ、私ってこの感じに弱いのかもぅ、、、

「ここではなんですから入ってください。どうぞ!」

ゴクリッ

夢子さんは何度か来たことある様子だけど私は他団体の道場に入るなんて初めてで何を警戒してるのか忍足で道場の敷居を跨いだ





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