#114 どうしよう

いっぱいいっぱい話せた
心配事もあるけれどそれも自分の活力にしようと思えた

テーブルの上は空いたお皿が
アイスコーヒーももうなくなりそうだ

改めてお父さんの格好を見てみる
ネイビーのボーダーの胸元にどうみてもラ○フ○ーレンの模倣の刺繍が入ったポロシャツにどこのブランドかわからないフェードブルーのジーンズ
足元はきっと昨日スーツを着たのであろう茶色の革靴
寝癖もあるし髭も今日は剃ってない

服には昔から無頓着だったがせっかくだったら最低限はオシャレして欲しいよ

「お父さん!時間まだあるよね?お父さんの服買いに行こ!社長からお父さんに何か買って行けってお小遣いもらったんだ!ね!行こ!」

「え、あ、お父さんの?まあ時間は大丈夫だけど貴絵こそ、、、」

「行こ行こ!今はファストファッションだって質も良くなってるし馬鹿に出来ないんだよ!ね、行こ!」
そう言って私はお父さんの手を引っ張って半ば強引に連れ出した

この駅の駅ビルにも店があったがどうせならとシャレシャレビル店の方に向かった
電車の中で少し考えていたので下調べしておいたのだ
まあナビはお父さんに任せましたが、、、

到着しエスカレーターに
ギリ大丈夫なシャレシャレ感だ
良かった

「なあ貴絵、別に服は家にあるぞ」

「ダーメ!どうせよれよれのTシャツばっかでしょ!おばあちゃんあんなにオシャレだったのに教えてもらわなかったの?」

「え、あぁ。家と仕事場を車で往復するだけだしなぁ。作業着ばっかだし、、、」

「お父さん、それじゃモテないよ!」

「バ、バカッ!そんな歳じゃないよ!」

「椎名桔平カッコいいなぁって言ってたじゃん!椎名桔平はそんな服着てないよ!」

「えっ!あ、あぁ、、、」

フフフ
お父さん本当に憧れてたんだ

そして店のフロアに到着
さてどうするか?
そうは言ったものの椎名桔平の私服なんて見たことないぞ

まあラフな感じだけど綺麗目で大人の人が着てもおかしくないってとこか?
一番簡単にオシャレに見せるとなったらセットアップかなぁ?

お父さんは何故か半分放心状態で口をポカンと開けて目も泳ぎながら私の後ろを着いてくる

このお店でこんな状態になるなんて一体どこで服を買っているのか
地元にだってあったぞここは!

ムムム
これだ!
これのマネキン買い一択だ!

「お父さんどうこれ?」
マネキンを指差す

ライトグレーのサラッとした生地のオープンカラーシャツとワイドテーパードのセットアップに真っ白なポケTとリアルレザーのこれも真っ白なスニーカー

うん、いい!
シンプルで爽やかさもありおじさんが着ても様になりそうだ

「どう?」

「あ、あわわわわ、、、」

な、なんでやねん!
なにをおびえとるねん!

「じゃあ試着室行くよ!」
商品をチョイスしまたまたお父さんの手を引っ張り試着室へ強制連行

「お父さん、着たらちゃんと見せてね!」
そう言ってカーテンを閉めた

「本当に謎だなぁ?結婚前とかどんな格好してたのかな?」

なんて考えてたらゆっくりカーテンが開く
お父さんは恥ずかしそうな顔をしながら私の様子を伺っている

「え!いいじゃん!いいよ!カッコいいよ!」
素直に似合っていると思えた
桔平レベルにはほど遠いけど3歩は桔平に近付けたはず

「そ、そうか?」
照れながらも喜んでいる

「うん!カッコいいよ!お会計したら来て帰ろうよ!」



そしてお会計
いつ来ても謎な機械だ
お父さんは自分で払おうとするがせっかく社長がお父さんの為にとくれたので私が貰うわけにもいかない
半ば強引に支払いタグを取ってもらって着替えてもらった

親子だなぁ
あの記者会見の時は私が買ってもらってすぐに着替えたもんなぁ

「いいね!桔平みたいだよ!」

「バカッ、なワケないだろ」
そうは言ってるがちょっとは桔平を気取っているのを私は感じ取っていた

私は不意にスマホを見る
「あ、お父さんそろそろ時間?」

お父さんは腕時計を見て
「あぁ、そうだなボチボチ出た方がいいかもな」

「そっかぁ、、、」
急に寂しさが襲う

時間だよ仕方がない、、、かぁ

「新宿駅ってお土産あるかな?お金余ってるしおばあちゃんにお土産持ってってあげて!」

構内のお店でバターフィナンシェを買った

そして山手線のホーム
お父さんは品川から新幹線だ

山手線ってすぐ来るよね、、、

「貴絵、これ」
そう言ってお父さんから封筒を手渡された

「何これ?」

「お父さんはプロレスにかかる経費はよくわからない。けど何かと入り用なんだろ?10万しか入ってない。本当に申し訳ない。もっと渡してやりたかったんだけど病院の金がな、、、」

「え、そんなの受け取れないよ!」

「いや!こっちは大丈夫だ!せめてもの祝い金だ。受け取って欲しい」

「わ、わかった、、、ありがと」

「よしっ!」
そう言って久しぶりに私の頭を撫でてくれた

嬉しさと懐かしさと別れる寂しさでまたちょっぴり涙が出てきた

「デビュー戦終わって落ち着いたら一度帰ってこい!成人式の前撮りしておばあちゃんに見せないと!お母さんが成人式の時に着た晴れ着おばあちゃんが綺麗にとってくれてるから。デビューしたら式の時に帰って来れるかわかんないだろうからな」

「うん、そうだね!帰るよ!」

すると電車が到着するというアナウンスがホームに流れる

「応援してるからな!デビュー戦がんばるんだぞ!」

「うんっ!」
がんばって笑顔を作った


プシュー
車両の扉が開く

「じゃあな!、、、てか貴絵、間に合うのか?」

「うん、じゃあ、、、??、へっ?何のこと?」

「何のことって5時から会見だろ?っ、わぁ!」
お父さんは他の乗客に押し込まれるように乗り扉が閉まり電車は行ってしまった


へ?会見?
なになに何のこと?

え、もしかして武道館の?

急いでセカジョのホームページへ

「ゲッ!マジかっ?!」

トップニュースの欄に
"17時から日本武道館大会に関する記者会見及びカード発表"
と明記されていた

「あ!だからお父さんと会うって言った時に社長が一瞬考え込んでたんだ!」


えー!え、え、どうしよう?
会見場の場所どころか何も聞いてないよ!


ぬおーー!!
どうしようーー?!


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集