#81 理由と流儀
イザネ氏はサングラスをおもむろに外す
「そっから真琉狐選手の試合を見漁ったんだ!新人時代になかなか勝てなかったところはウチとオーバーラップしたしコミカルな試合も多いけどガッチガチの試合じゃウチが言うのもなんだけどセカジョらしいっていうのかな?魂を削り合うというか本当の闘いっていうのを見せれる選手なんだなぁって。すると薨とのワンマッチが決まってなんか居ても立っても居られない気持ちにさせられてもう私はセカジョに入るんだってここでもう一度やるんだって!だから鬼電したってワケ」
「そうだったんですね。真琉狐さんがキッカケに」
「キッカケは真琉狐選手だね。でももちろん夢子選手もリスペクトするべき選手だと思うしコーチされてるって聞いた亀松さんの試合も観たよ!ウチらもよくSNSで比較されてた「軍団赤鬼(TEAM RED DEVIL)」の最後の1人なんでしょ?やっぱ恐いの?背はそんな大きくないけどゴツくてさぁ。凶器もバンバン使うし!」
「ア、ア、アハハハ、、、」
今の亀さんの風貌見たらきっと驚くだろうなぁ
記者会見の時とかこないだのセコンドで気付かなかったのなら
「で、イザネさんはこないだの試合は配信で?」
「いや、行ったよ!後楽園に」
「来られたんですね!」
そうだったんだぁー
「え?周りにバレませんでした?」
「いーや、全然!だって甘ロリ全開の地雷メイクで行ったから!!」
うぉー!その手があるのかぁーー!!
確かにイメージと真逆すぐるぅぅー
「だから堂々と南のど真ん中で観てたよ」
「そ、そうだったんですね」
関係者の誰々来てるよとかは耳に入ったけどそりゃ誰もわかんないわけだわ
甘ロリに地雷メイクのイザネ氏
普通に見てはみたい!!
そして窓の外を不意に見つめて
「凄かったよねぇ、、、誰にも真似出来ないくらい、、、悔しかったなぁ、、、」
「ハ、ハイッ」
なんとも言い表せないいろいろな感情が入り混じった表情でイザネ氏はそっと呟いた
「途中、薨が戦意喪失みたいになったじゃない?理由はわかんないけどさ、、でも彼女にもそういう何かがあったりそうなってしまうなんて、、やっぱプロレスって恐いモノだしあんなクールな彼女もやっぱ人間なんだなぁなんて思ったりね、、、」
、、、、
「後は観客も含む人間関係が渦巻く感じとかさ。夢子選手も必死だったしレフェリーの人も真琉狐選手のセコンドの人も、、たまちゃんも闘ってたよね!カッコ良かったよ」
「あ、ありがとうございます」
ペコリ
「途中からは誰に感情移入していいかわかんなくなっちゃってさ!ハハッ、でもそれがプロレスだよね!見てる人の感情をいい意味でも悪い意味でもぐっちゃぐちゃにする。やっぱそれこそがウチのやりたいプロレスなんだって!、、、ちゃんと理由になってるかなぁ?」
「完璧だと思います!」
生意気な物言いなのはわかっていたがイザネ氏の熱い想いは私の胸まで熱くさせた
どこまでこの熱を夢子さんに伝えられるかはわからない
でもこの私が感じた温度を1℃でも下げずに伝えなきゃダメだ!
そんな責任感が芽生える
「よいしょっと」
イザネ氏が立ち上がる
「メロンソーダでいい?」
「あ、ハイッ!!」
それからしばらく雑談をし店を出て改札前までイザネ氏を見送る
「イザネさん!どうもごちそうさまでした!」
ペコリ
「こちらこそわざわざ出向いて話聞いてくれてありがとうございました」
ペコリ
「じゃあ明日、夢子さんに話てみますんで連絡しますね!夜遅くても大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫!ウチ、今ニートだし」
「わかりました!ではお気をつけて!」
ペコリ
「うん、ありがと、、、ねぇ、たまちゃん!」
「あ!ハイ?」
「イザネさんはやめよっか!」
「ん?」
んんん?
どゆこと?
「もうウチら友達じゃん!イザネかイザネちゃんでいいよ!」
「えーっ!そ、そんなぁー!ダメですぅ」
「ウチはさぁ!もちろん先輩には敬意を持って接してるつもり。でも後輩にはそうして欲しくないんだよね。なあなあにしたいワケじゃなくてそういう枠を取っ払って何でも気軽に言い合えるそんな関係でいたいのよ!今はまだ怒ってくれる人もいるかもしれない。でもウチらプロレスラーは団体に居たって個人事業主。いつか裸の王様になる時が来るって恐いじゃん?まあ所謂ダイバーシティってヤツよ!ちょっと意味違うかもだけど」
新しい感覚だった
イザネ氏、、いやイザネちゃんはイザネちゃんの流儀を持ってる人なんだ
その流儀に感銘を受けた
「じ、じゃあ、、連絡しますね!、、、イザネちゃん!」
イザネちゃんはクスッと笑い
サムズアップ
「他の先輩にはやっちゃダメだよ!連絡待ってるね!、、、たまちゃん!」
そう言ってイザネちゃんは振り返って行ってしまった
「イザネちゃんの想い。絶対に伝えなくちゃね!」
そういや真琉狐さんのセコンドについてたのが亀さんだって言ってあげれば良かったかなぁ?
ま、いっか!
ビックリするだろうなぁー
新しい仲間が増えるかもしれない
しかもこんな素敵な人が
そう思ったら思わず駆け出していた
初夏の青葉の匂いがする街の中を