#93 勝者の背中
パンッ
UNIがコーナーから飛び降りる
そしてセンターで2人が対峙する
対戦相手は東雲茉莉奈
刈り上げを見せたマンバンに前髪を垂らしている
黒のスポブラのような上とニッカポッカのようなダボっとしたパンツにレガースという格闘技系の技が得意な選手だ
ボディチェックが終わり
「レディー?ファィッ!!」
カーン
ゴングが鳴らされた
手拍子とともに大UNIコールが起きる
それに紛れて時折「東雲ーっ!!」と野太い声
私はまさに手に汗握りぐっと体を前方に2人の闘いを見つめる
すると横にいたちづるさんが
「ハイッ!たまちゃんはここまでー!!」
「えっ!あ、えーっ?」
「どうせ夢子さんにトイレ行ってくるとか嘘言って出てきたんでしょ?これ以上居たら本気で怒られるよ」
うーっ、全て見抜かれているぅぅ
でも確かに試合前の夢子さんに手間取らせるのは違う
「ありがとうございました。戻ります!」
ペコリ
「がんばってね!セコンド」
ペコリ
後ろ髪を引かれまくられながら控室へと戻った
夢子さんは黙して語らず
ピリッとしてるようでどこかリラックスもしているような独特の雰囲気を醸し出している
しばらくすると下でカンカンカンカーンと音が
あ、試合終わったんだ
そう思っていたらちづるさんが控室に入ってきた
「夢子さん!試合終わりました。そろそろ出る準備お願いします!」
夢子さんはゆっくり立ち上がり
「わかった」
「じゃあたまちゃん!先に準備しよっか?」
「ハイ!わかりました」
私も立ち上がる
すると夢子さんが
「ちづる、試合5分かかんないかもだけど大丈夫?」
ちづるさんはしばし黙ったまま夢子さんの目を見つめ
「、、、大丈夫です!あの子の為にもあの子の良さを引き出すなんて考えずやってください!でも私はあの子を信じてますから!!」
「、、、わかった」
ちづるさんはその返事に呼応するようにうなづき
「じゃあ、たまちゃん行こう!」
「ハイッ!」
私とちづるさんは廊下に出る
そして入場に際しての軽い打ち合わせ
「こないだの真琉ちゃんと薨選手の試合のセコンドが初めてなのかな?」
「ハイ、そうです!」
「そっか。でもあの試合はセカジョの試合でしょ?」
「ハイ」
「でも今日は練女の試合でしかも夢子さんはXとして参戦してもらってるわけで本当に花道に姿を現すまで絶対にバレちゃダメなのね」
「ハイ」
「だから夢子さんからも聞いたと思うけどたまちゃんの存在もバレちゃダメ。なので夢子さんがゲートを潜って花道を歩き終わってからリングを回って階段に向かおうとするのをさっきみたいな感じで確認してそのタイミングでダッシュして逆方向から先回りしてロープを上げる。OKかな?」
「ハイ、わかりました」
「じゃあ頼むね!下で待ってて!」
「ハイッ!」
ペコリして下へ
きっとUNIが勝利したのであろう
「DELIGHT」が階段にも響いていた
すると下にはどこか落ち着かない様子のきょろろん選手が手遊びみたいなことをごにょごにょとしていた
おかっぱの茶髪に丸顔の童顔
確か20代後半だったと思うが薄めのメイクとも相まってなのか高校生くらい見える(その辺はあまり人のこと言えないが)
160cmちょいで体重65〜6kgってとこだろうか?
女子レスラーとして小さくはないが大きいウリも出来ない感じでちづるさんの言ってたこともわかる
だがオレンジと青を基調としたコスチュームから覗く体の部分一つ一つにパンっとした張りを感じられ日々の鍛錬を欠かしていないことは一見して理解できた
さすがに早かったか?
このような小さな会場ではこういう感じなのだろうか?
やっぱ挨拶した方がいいのかな?
でも一人で集中してたいよなぁ
だって夢子さんだよ?
しかも進退を賭けた試合なんだもんなぁ、、、
私はきょろろん選手の様子をチラチラ伺いながらもひっそり気配を消そうとしていた
するときょろろん選手が逆に怪しい動きになっていた私に気付き会釈をした
「あ、ど、どうも」
私も小声で会釈を返す
そんなちょっとだけ気まずい空気を破るようにゲートの幕がバッと開いた
「きょろろんさぁーん!勝ったよー!!」
そう言ってきょろろん選手に抱きついたのはセミで東雲選手に勝利したUNIだった
「う、UNI、、、」
私の顔が一気に強張るのが自分自身でよくわかる
「UNI、おめでとう!」
「うん、ありがとう!きょろろんさん、がんばってね!絶対絶対大丈夫だから!すぐセコンドつくから!ね!」
その言葉を聞いてきょろろん選手は満面の笑顔で大きくうなづいた
ハグが終わってグータッチ
そして控室に戻ろうとする瞬間にUNIは私に気付く
私を見たUNIは笑顔で近づいてくる
強張った顔で私は絶対目をそらせちゃいけない!
絶対にそらせちゃ!!
ドクン、ドクン、、
すれ違う瞬間私の真横で立ち止まるUNI
ドクン、、、
「ねぇ、たまちゃん、、、リングで待ってるから」
普段の明るくかわいらしい声ではなくすごく落ち着いていてトーンも低く冷淡さも私は感じていた
スッと流れる冷や汗
だけど私はサッと振り返った
どういう感情なんだ?
掴みかかろうとしたのか?
私自身が私自身を理解出来ない
だが目の前に映ったのは勝者として堂々としたオーラを放ち階段を登っていくUNIの背中だった