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チャレンジャーズ

ただの不謹慎なテニス映画だと思うなかれ。
描かれていたのは「エネルギーによる再生」だった。再び生きると書いて再生。

その再生が、ひとりの女性の取り合いという、高尚でもなんでもない理由に依るのがまた面白い。
しかしそれもまた立派なエネルギーだ。

異性愛というひとつのカテゴリーのみならず、全てのシーンが生々しい。
なのに下品じゃない。
それがグァダニーノ。

この映画にしろオッペンハイマーにしろ瞳を閉じてにしろパストライブスにしろ、顔面を必要以上にロックする画面が増えた。
人間の顔ってこんなに情報量あんのかってのが、昨今のAIの隆盛に対するメッセージにも思えてくる。



「最高にホットな女」ことゼンデイヤ演じるタシは、熱にしか興味がない。

彼女の熱は、最初はもちろん、彼女自身のテニスに向けられる。彼女が現役中のピークに放った絶叫をみたか。
それと比べると少し弱まって、彼女の熱は恋愛にもまた向けられる。でもセックスの前戯中にも彼氏のテニス(notペニス)についてダメ出しして大ゲンカしちゃう感じ。

そんな彼女が、不運にも怪我に見舞われる。

大人になったあと、「この膝が治るなら人を殺してもいい。老人でも子供でも。」と言い放った瞬間、隣の部屋で遊んでいる自分の娘とおばあちゃんの声が聞こえてくるという演出のなんと意地悪なことか。

結局、右ひざの故障は回復の見込みもなく、彼女は裏方に回ることになる。

「私は最高のテニスが見たいだけ。」
と熱量の方向も変わっていく。でも嘘ではない。

タシは、現夫となるテニスプレイヤー、アートのマネージャー兼コーチとなり、そちらでもしっかりと結果を出す。めちゃくちゃ有能だ。

しかしそんなアートもやがて現役としての峠を越え、スランプに陥る。引退も考え始める。

そんな彼を、小さな大会でとある男にぶつけようとタシは画策(たぶん)する。
その男がまさに、三角関係の残り一角を担うクズ男、パトリックだ。タシの元カレでもある。

口座残高は70ドル、ホテルに泊まる金もなく、車中泊で大会に出場する、なんならTinderでその日の寝床を探すという落ちぶれっぷり。

アートとパトリックは、タシを奪い合う前のジュニア時代、親友でもあった。大人になった後と比べて、当時の彼らのテニスの楽しそうなことといったら。


そんな彼らの関係性と試合が、最終的にどんな結末へと向かっていくのか。
全身毛穴拡張不可避ラリー(何あの撮り方)を経て、現役時代以来聞けることはなかったタシの絶叫が、ふたたび木霊する。


どんな不謹慎な理由に依ろうとも、タシもパトリックもアートも、生き直したのだ。
チャレンジャーはひとりではない。だから"s"を書き足してみせる。

30代も半ばを折り返した僕も、これを読んでるあなたも、複数形の"s"にはきっと含まれているはずだ。

どんな理由でもいい。もちろん不謹慎じゃなくても。
何度でも生き直せ。



最後になるが、監督であるルカ・グァダニーノの青を基調とした画面はいつも好きだ。
その中でも今作の、コートの下にカメラを設定して真下から捉えた雲ひとつない空は、今までで一番好きな青だった。

そしてここからは蛇足であり妄想だが、今作の脚本を担当しているジャスティン・クリツケスは、パストライブスの監督兼脚本でもあるセリーヌ・ソンのパートナーでもあるらしい。(あっちも名作)

つまり、過去の男に後ろ髪を引かれている女性と結婚した男性、この映画で言うとアート側の男性が、あのラストを書いのだ。めちゃくちゃグッと来る。そんなことある? 泣ける。

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