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資金調達ってニュースなの?

先日、NHK時代の同僚で、いまスタートアップ取材メディアを立ち上げている友人とやりとりをしていました。

どんなタイミングで取材を考えるのか話題になったとき。彼からふられた言葉です。

資金調達きっかけの取材。ただこれって本当にニュースなのかな?と思う。でも不思議と数字は上がるんだよな

この言葉はいろいろと深いな、と思いました。

もちろん、資金調達のプレスの戦略は、決してメディア向けだけではありません。採用広報に振り切っている会社もあれば、資金調達を機に注目を集め、今後の発信の起点にしたいと思っている会社もあると思います。

なので、今回はメディアに向けた「メディアが取材したくなる資金調達」に焦点をあてていきたいと思います。
スタートアップの魅力がメディアにきちんとした形で伝わり、メディア側にも取材しやすい情報が届き、様々な形で情報発信に結び付ける一環になれば、と思います。


ニュースとしての資金調達

まず、資金調達のニュースを取り上げるモチベーションは、大きく3つに分かれます。

1.数字がニュースだと思う場合
2.内容がニュースだと思う場合
3.企業広報や周囲から取材を依頼される場合

今回は、このうちの1と2について述べていきます。

数字がニュースだと思う場合

数字自体がニュースに感じるケースは稀です。ただ、あえて最初に持ってきました。

数字がニュースだと思う、これは「ことしに入って、日本で最も大型の資金調達」といった、他に類似する例があまりない場合です。

なぜ数字をニュースとして取り上げようという気持ちになるかというと、タイトルやリードが深く考えなくても「イメージが湧く」からです。

具体例を挙げます。今月(7月)、キャディさんから総額118億円の資金調達が発表されました。

その日から翌日にかけて、日経新聞やForbes JAPAN、Tech Crunchなどにも、この118億円の資金調達のニュースが取り上げられました。

すべてのメディアのタイトルに118億円($89M)が記載されていますよね。そして記事内のリードと呼ばれる冒頭部分にも、118億円やことし最大級、といった数字が盛り込まれています。

こうした誰もが大きいと感じる数字は、メディアも注目して、積極的に取り上げていきます。

参考に、こちらが去年の調達ランキングです。こうしたところに入ってくる数字が、メディアが「これは取り上げておいたほうがいいな」と思う数字に近いと思います。(11月のランキングのあとに、年間のランキングがあります)

内容がニュースだと思う場合

多くのスタートアップが該当する、もしくは私がして欲しい、と考えているのは内容のほうです。

ここでの答えを先に言うと、プレスを見たときに「資金調達で、何をしようとしているのか」が分かることです

正直、内容がニュースだと思う場合、これは紐解くと複数答えがあります。

でも、今回お伝えしたいのは、「その資金調達で、何をしようとしているのか。そこにニュース性があるのか」ということがメッセージとしてあるかどうかです。ニュース性ってなんだよ、と聞こえてきそうですが、もう少しお付き合いください。

さきほど、数字の例でキャディさんを取り上げました。
これはなぜかというと、各メディアが118億円資金調達をした――と書いた以外に、何を書いているのかに注目したいからです。

太字が注目して欲しいところです。


・日本経済新聞(7月5日付)

リード
産業機械などの部品の受発注を仲介するキャディ(東京・台東)は5日、第三者割当増資でベンチャーキャピタル(VC)のグロービス・キャピタル・パートナーズなどから118億円の資金を調達したと発表した。主に図面管理のクラウドサービスでの機能追加や米国展開に充てる。事業拡大に向けてエンジニアや営業などの人材採用を進める。

本記部分(一部抜粋)
米国では1月に子会社を設立した。大型の産業機械のほか、航空機や商用車などの顧客へのサービス普及を図る。キャディは30年に部品の受発注の仲介事業で1兆円規模の売り上げを目指す。加藤勇志郎代表は「30年の売り上げの半分程度を米国を中心とした海外事業にしていきたい」と意気込む。

→今後、図面管理のクラウドサービスの展開、アメリカ展開。1兆円規模の売り上げを目指す、ことに言及


・Forbes JAPAN(7月5日付)

リード
製造業の調達領域で事業を手がけるキャディは、シリーズCラウンドで総額118億円の資金調達を実施した。2017年の創業以来の累計調達額は217.3億円となった

本記部分(一部抜粋)
国内事業の成長軌道が確立されつつあるいま、加藤の視線の先にあるのは、創業以来の念願であるグローバル展開だ。キャディは22年にサプライパートナー網の拡大を目的とした拠点をベトナム、タイに設立。23年1月には、満を持して米国の市場開拓のための拠点をシカゴに開設した。加藤は今年、8割の時間を米国で過ごし、トップセールスに奔走。すでに顧客がつき始めており、現在、100人体制を目指し組織づくりを進めている。

→グローバル展開、そしてシカゴを拠点に、アメリカの市場開拓を進めることに言及


・BRIDGE(7月5日付)

リード
製造業の受発注プラットフォーム「CADDi(キャディ)」を運営するキャディは5日、シリーズ C ラウンドで約118億円を調達したと発表した。

本記部分(一部抜粋)
今回の調達を受けて、累積調達額は217.3億円に達した。同社の社員数は590人(2023年6月)に達しており、調達した資金を使って、アメリカ拠点の設立や、ベトナムとタイでの拠点設立を進める。また、これらのグローバル展開は、サプライパートナー網の拡大を目指す

→今後のグローバル展開に言及


・NewsPicks(7月7日付)

リード
2023年最大級となる118億円の資金調達を発表したキャディ。「スタートアップ冬の時代」なぞ「どこ吹く風」といわんばかりに。

本記部分(一部抜粋)
調達資金は、次なる挑戦として

📌「ものづくり版GitHub」と呼べるソフト開発

📌今年本格進出したアメリカ事業の拡大

に向けて活用する。

キャディといえば、マッキンゼー出身の加藤勇志郎氏、アップル出身の小橋昭文氏の創業者2人をはじめ、華麗なキャリアの人材が集まる。

しかも、この天才・秀才集団のミッションは、ニッポンの町工場を含めた「ものづくり産業のポテンシャルを解放する」こと。

そして、2030年に1兆円ビジネスを目指す。

→ものづくり版GitHubの開発、ことし本格進出したアメリカの事業の拡大について言及


重要なのは資金調達から見える「この先」と「キーワード」

各メディアの記事のリードと本記部分をそれぞれピックアップすると、今回の資金調達で、「クラウドサービスの今後」と「グローバル展開(特にアメリカ)の今後」に注目していることが分かります。

これが、ニュース性です。

118億円の大型資金調達をした企業を取り上げる際も、ただ数字だけに着目しているのではなく、+αを書いている、または深掘りしています。

つまりメディア側から見た「資金調達で、何をしようとしているのか」の答えになります。

プレスをするスタートアップ側から、「資金調達で、何をしようとしているのか」というメッセージが、メディア側にきちんとした形で伝われば、メディア側も取材しようというモチベーションがグッと高くなります。

これから、資金調達のプレスリリースを作成しよう、と考えているスタートアップの方にぜひ意識して欲しいことです。

ただ、注意が必要なのが、「よし何をしようとしているのか、盛り込めばいいんだ」と書いても注目してもらえないことも当然あります(むしろ多いです)
それは、今回のキャディさんでいう「グローバル展開」のようなキーワードが、メディア側に刺さっていないからです。ニュース性を感じてもらえていない、ということになります。(ただし、これは発信側だけの問題ではないですが。)

じゃあ何がキーワードなんだ?となりますが、このキーワードづくりということがとても難しいテーマです(泣)。

キーワードについて、私も過去にこんなツイートをしていました。テーマは取材したくなるプレスリリースの内容です。

今回でいうと、グローバル展開というのは、大きくなるスタートアップの時勢であり、かつ多くの人に影響する、ところにあてはまります。

(多くの人に影響する、というのはかなり重要で、関係する人が多ければ多いほど、そのニュースを伝える意味が出てくるからです)。

また、当然メディアが関心を持つキーワードの中身は常に変わってきます。私がVC業界に転職して始めた「メディアVC交流会」も、スタートアップへの橋渡しはもちろん、このイベントをきっかけにメディアとのつながりを深め、そして話を聞き、キーワードを常に新しくしたい、という思いもあります。

まとめ

ここまで、資金調達について色々と書いていきました。
おさらいでいうと、資金調達を取り上げるモチベーションは主に3つです。
1.数字がニュースだと思う場合
2.内容がニュースだと思う場合
3.企業広報や周囲から取材を依頼される場合

そして、今回取り上げた1と2のうち、最も伝えたいことは、内容がニュースだと思う場合。
これを支えるのは、「資金調達をして何をしようとしているのか」が分かることです。
さらに、その「何」がキーワードとして捉え、刺されば、メディア側から「ぜひ取材させてください」と声がかかることが増えていきます。

今回も長文になってしまいましたが、スタートアップの皆さんのプレスに少しでも役立つことができれば幸いです。

いつもnoteを読んでくれる方々、本当にありがとうございます。そして今回初めて読んだという方々も、引き続き、発信を頑張っていきたいと思いますので、ぜひnoteをフォローして頂けると嬉しいです。

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