P11 パンドラの手紙
その便箋は綺麗に三つ折りされていた状態で封入されており、取り出した時点ではそこになにが記されているのかが分からなかった。
私はすぐにそれを広げ、中に記されている内容を確認することもできたが、一瞬、無意識的に留まった。
これまでの一連の流れの意図がまったく掴めないからだ。
その男性は偶然私の家の前を通り、偶然私の家の前で屯っていた女性達に私の家族と私の話を聞いた。
一連の事情を伺ったのち、彼女達を半ば強制的に退け、私に接触をしようとしたがそれは叶わず、この便箋になんらかのメッセージを残した。
それらを何度振り返っても、どれだけ考えても、彼の動機が思い当たらないのだ。
私は、今そこで聞いた黒い噂の元凶に接触しようとする大人を知らなかった。
もしかしたら彼は、父か学校から依頼された児童施設の職員かもしれない。
本当は知らないふりを決め込んでいただけで、仕事上のトラブル要素をなるべく取り除きたいから、彼女達に対してあのような対応をとったのかもしれない。
そうだとしたら妙に納得がいった。
人間、得体のしれないものには、自由で創造性溢れる憶測をするものだ。
特に狭い環境に住み慣れた人間はとってはとても容易い。
私の推測が本当なら、父や学校が外に出て行こうとしない私に対して、圧力を伴った強硬手段をとったということになる。
そう考えると私は、その便箋がまるで裁判所から送られていた召喚状のように、異様で堅い書物に思えてきた。
きっとその便箋には私にとって、ある種の覚悟を決めなければならないものが書かれていると思った。
私は中身を確認せずに、それをびりびりに破いて忘れ去りたい衝動に狩られた。
けれど、その衝動に反論するように希望的観測も浮かんできた。
改めて考えれば、あの男性が児童施設の職員とは思えないからだ。
経験上、そういった雇われ者はなるべく無用なトラブルを避けたがるし、第一、あの男性がどこかの組織に属しているような人物に思えなかった。
整理のつかない思考を呼吸で整えたのち、私は覚悟を決めた。
湧き上がってくる緊張と希望と絶望を携え、ゆっくりと閉ざされた便箋を開いていった。
そこに記されているのは天の啓示か、それとも悪魔の囁きか、
鬼が出るのか、それとも蛇が出るのか
もちろん、そのどちらでもなかった。
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