P12 答えのない問い
パンドラの箱のような手紙を開いた瞬間、私は一瞬戸惑った。
きっと、びっしりと小難しく、非常に周りくどい何かが記されているのだろうという当初の私の予測を裏切ったからだ。
その便箋のほとんどは”まっさらで無記入”の状態だった。
一瞬なにも書かれていないのではないのか、と思ったほどだ。
そしてそこにはたった一言、右上に添えるようにこう記されていた。
【あなたはそこにいますか?】
本当に、たったそれだけだった。
私はこの目の前の現実にどう対応したらいいのだろうか?
一度、その手紙を光にかざして透かしてみたが、文字を消した痕跡もなければなにか特殊な細工がされたようなものでもなかった。
それはただ”あなたはそこにいますか?”と書かれた紙だった。
とりあえず、わたしは内容について自分の解釈を整理することにした。
まず、その手紙の宛名は私だったので、この質問は私に向けられたものということになる。
次に、この質問のもっとも謎めいているのは”そこ”という部分だ。
当然ながらこの手紙には”そこ”が一体なにに当たるものなのかを示している記載がまったくない。
つまり”そこ”という代名詞が何を指しているのかでこの質問の意味が全く変わってくる。
普通なら”家”にいるのか?という意味で解釈する。
けれどあの謎めいた男性がそんな意図でこのメッセージを残したとはあまり思えなかった。
もしかしたら、これはもっと抽象的で、統合的な質問なのかもしれない。
”存在”を問いているのかもしれないし、
”精神”を問いているのかもしれない
もしくは”生死”を問いているのかもしれない。
いずれにせよ、その質問の意図がわかったところで私は答えられそうになかった。
仮に答えられてたとしても、それになんの意味があるのだろうか。
さらに謎めいていたのは封筒にも便箋にも、差出人に関する情報の記載がなかったことだ。
これだと、まるでたちの悪いイタズラにあったようだ。
返事はいらないから己が心に問いかけてみよ、とでも言いたいのだろうか。
さまざまが意図が絡みついたかのようで、非常に腑におちない気持ちだった。
考えれば考えるほど、底の見えない疑問が湧き出してきた。
今思えば、私はあの人の思惑に見事にはまっていた。
いいや、あの人の場合、策略というよりかは表裏のないコミュニケーションだったのだろう。
私がその答えともいえない答えを知ったのは、それから半月後のことだった。
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