P13 人を閉じ込めるもの
それから2日おきにその男性は家にやってきた。
私は応答しなくても、彼の存在を知ることが出来た。
なぜなら彼はいつも同じものを携え、同じ余韻を残していったからだ。
いつもと同じ、正午前の時間にチャイムを2回鳴らし
いつもと同じ、規則正しいノックを3回おこなっていた。
唯一最初の訪問の時と違うのは、手紙が投函されていないことだけだった。
訪問の回数を増すごとに、私は薄気味悪さを覚えた。
けれどそれに反発するように、妙な好奇心が芽生えてきた。
いずれも相変わらず、彼の行動の意図がまったく理解できないことが原因だ。
彼は無意識に行なっているのかもしれないが、彼がとっている私との距離は絶妙だった。
もう少し、彼が頻繁に訪ねてチャイムを鳴らしたり、手紙を投函し続けていたりしていたら、私は彼に対して拒絶するしかなかっただろう。
だからといって訪問の期間を空けてしまうと、妙な出来事として記憶して忘れ去っていただろう。
それはまるで城壁の石を一つ一つ取り除くように、慎重に、丁寧に、そして規則正しく、私と彼の間にある何かを崩しているように感じた。
普通に考えれば招かざる客のはずなのだが、彼の場合は不思議なほどに警戒心が刺激されなかった。
おそらく、彼は私からなんらかの応答がない限り、ずっと同じことを繰り返すのだろう。
明後日も、一週間後も、一ヶ月後も…
悩んでいることでもなかったが、どこかの時点で、どちらかがこの均衡を崩さなければいけないことは明らかだった。
そう考えると私はいっそ、彼と顔を合わてみても良いのではないかと思ってきた。
山のような疑問を考察するより、彼に直接問い正せば一瞬で解決する。
そして、私は誰とも会わないとただ一言彼に伝えれば、私はいつもの平穏な日常を取り戻せるのだ。
胸中に少さな動機を見出したと思ったら
今度は反発するように理性が反論してきた。
いったい何をいっているのだろう。
親切心と同情心という化けの皮を被った大人を、今まで多く見てきたではないか。
手前勝手な虚像を演じ、縋り付かんとすれば突き放すやつらだ。
彼に会ったところでせいぜい、説教されるか、よからぬ勧誘か、下手すれば危害を及ぼす可能性だって否定できない。
何を期待しているかは知らないが、今までそれに答えてくれる人はいたのか
いいか、何もせずに、希望から押しかけてくることはないのだ。
いつも私を閉じ込めていたのは歪んだ観念だった。
死ぬまでそれと付き合うつもりだった。
下手な子供より、悟っている気でいたのだ。
後々にそれが非常に小さな世界だったことを知ることになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー毎日コツコツと執筆更新中です。
過去ページはこちら
日々物書きとして修行中の身です。記事が読みものとして評価に値するならサポート頂けると大変嬉しいです。 ご支援頂いたものはより良いものが書けるよう自己投資に使わせて頂きます。