P10 慣れない手紙
彼が去ったと思われる時から1時間ほどたった頃、ようやく私は玄関に向けてそっと歩を進めた。
警戒心を緩めないのは自分の巣穴付近に天敵がいるかもしれないからだ。
まずは二階の窓から外の様子を確認し、人気がないことを確認して、その窓をそっと開ける。
そして耳をすませ、私にとっての安全が確認がとれればようやくポストの確認へとステップを進める。
閉ざされた世界に住む人間にとって、外との接触はもっとも警戒すべきことなのだ。
我が家のポストの悪い点は、家の中から郵便物を取り出せる埋め込み式のタイプではないということ
良い点は玄関から身を乗り出すこともなく、手を伸ばすだけでその中身を取り出せるということだ。
改めて私は外に人がいないか耳をすませ、そっと玄関を開けて片腕を伸ばし、手探りでポストの取り出し口を開けてなかにある郵便物をさぐった。
チラシ特有のツルツルした感触と共にもうひとつさらさらした何かが入っているのが手の神経を伝って確認できた。
それらを傷つけないように掴み、そっとなるべく音を立てずに取り出し、流れるようにポストと玄関の隙間を閉じた。
足早に自室に向かい、少し呼吸を整えたあとに手にもっていたモノを確認する。
一つは宅配ピザのチラシだった。
企業のマーケッターとデザイナーが必死に考えた、カラフルでありがちなフレーズとか、消費者心理を刺激するクーポンが散りばめられているものだ。
もう一つは封筒だった。
それはひと昔前の純愛映画に出てくるような白い横長のもので、購入してすぐ使用したもののようにシミやシワひとつないものだった。
表には私の名前が様付けで書かれてあり、裏面にはなにも書かれておらず、切手は貼られてなかった。
どうやらこの封筒の送り主はあの男性で間違いなさそうだ。
そして、あのチャイムやノックは私に向けられたものだったということになる。
おそらく、私の名前は表の表札で知ったのだろう。
しかし、ひとつ理解できないことがあった。
彼がなぜ私の名前の後に「様」とつけたのだろう。
差出人が私の年齢を知らない限り、私の宛名には大抵「くん」がつくのがほとんどだったからだ。
慣れない経験に違和感を覚えつつも私は慎重に封をあけた。
それは一枚の便箋が入っていた…
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