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P16 問答

彼が去ってから、私は深いため息をつくしかなかった。

改めてあの謎めいた手紙に書かれたテーマについてまた考えなければならなくなったからだ。

せめて去ろうとする彼を引き止めて、ヒントでももらっておけば良かったのだ。


突然「あなたはそこにいますか?」なんて問いただされたところで、いったいどう答えろというのだ。

嘆いたところで以前と同じ迷宮に迷いこみそうだったので、私は嘆くのをやめた。


そしてもしやと思い、戸棚にしまってあった手紙を広げてみた。

けれど、残念ながらそこに記されてあったものは以前と変わらないものだった。

ただ分かったことは私に課されている現実は論理的でも合理的なものないということだけだ。



分かった。

それならこの訳のわからない、問答に答えを出してみようではないか。

皮肉にも私には思考に入り浸る時間も、静かすぎる環境もあるのだ。



まずは私は改めて、その手紙に並べられた言葉を眺めてみた。

考察するのをやめ、ただ無心に、【あなたはそこにいますか】という言葉を眺めた。

まるで名作絵画を眺めるようにじっと、観た。



やがて空気の震えが止まり、身体の内側で呼吸音が静かにこだまするのが感じられた。

そして時間の流れが止まってしまうのかと思ったその時だった。



【私はどこにいるのだろう?】


それは水面の底からなにかを拾い上げたような感覚だった。

問いから発生したのは新たな問いだった。



あの手紙に記されている"そこ"というのは言うまでもなく、場所のことを指しているわけだが

おそらくこの文面に記している意味は物理的なものではないのだろう。

それはもっと精神的な空間のようなものを表していて、

”人の在り処”といったような意味ではないだろうかと直感的に私は思った。



だとしたら、”私の在り処”というのはいったい何処なのだろうか。

では今いるこの暗く、狭い、限られた空間が私の在り処と胸をはって言えるだろうか。

おそらく、そうとは言えない。

だとしたら、そこはどのようなところだろうか?

それは分からない。



ただ現時点で、私は”そこにはいない”ということが私の答えとして導き出せたことになる。

何も確信もなかったが、私は妙に一つの境地に至ったような気分だった。



答えのない答えを導き出した私は明日、彼にどう説明するのかと意識を困惑させながら眠った。





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