見出し画像

P15 沈黙と問い

戸口に手をかけた瞬間

また理性の抵抗だろうか、なぜかこれまでの様々な体験が頭に浮かんだ。

そのおおよそは、大人達の冷たい笑い声だった。


そしてさまざまな負の感情を心の中で入り混ぜた。

虚しさ、悔しさ、悲しみ、怒り、憎しみ

それらが内側で弾け、なにかを決意させた。



2回目のノックが鳴ったとき、私は静かに扉を開けた。

久々の陽光の光に少し目が眩んだと同時に、静かに立ち尽くす男性が視野に入った。


その男性は上下を紺のスーツと水色のシャツに包んでいた。

少し日焼けした肌にやや痩せ型の体型、短いけれど整えられた髪

その風貌から40代かと推測したが見た目の特徴だけでは確信が取れなかった。

人によっては30代とも推測するだろうし、50代と推測する人もいるだろう。


そしてなにより、特徴的な黒色の瞳をしていた。

一度、目を合わせれば思わず、身構えそうなとても強い印象の瞳だ。


永く開かれなかった扉がようやく開かれ 、目的の人物と対面できたわけだが男性は特に驚いた様子もなければ、感動した様子もなかった。


ただ玄関に出迎えた私と顔を合わせ、その特徴的な瞳でずっと私を視ていた。

その様子はただ沈黙しているようにも見えたし、私を観察しているようにも視えた。


重い空気に耐えられずに私が口を開こうとした瞬間

彼が沈黙を破った。


「あの手紙は読んだいかい?」


最初の言葉がそれだった。

挨拶も、名乗りもせずにいきなり質問ときたものだ。

私は話を遮って胸中のモヤモヤを吐きだしてもよかったが、まずは相手に合わせることにした。


「…読みましたよ」


男性の表情がわずかにほころんだ気がした。


「それで、君の答えは?」

間髪詰めずにまた聞いてきた。

この人は質問でしかコミュニケーションが取れないのだろうか。


「答えもなにも、あの手紙に書かれていた意図がよく理解できていません」


男性が少し沈黙し、また口開いた。


「では質問を変えようか、

あの手紙を読んで君はなにを思ったんや?」


「思うも何も、ただ混乱しただけです。」


私は反論するように答えた。


男性は表情を変えず、また少しの沈黙のあと口を開く


「それやったらまた明日来るから、答えを用意しといて」


そう言うとすぐさま振り返って、足早に去っていった。

姿勢を崩さずに軽快に帰路につくそのさまは彼の並ならぬエネルギーの高さを感じさせた。


私が彼を引き止めようとしなかったのは、彼があまりにも予想の範疇を超えて現実的対応が遅れた為だ。



結局、私は彼に一言も伝えることも、伺うこともできず、

彼はまた疑問だけを残していった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
毎日コツコツと執筆更新中です。
過去ページはこちら



日々物書きとして修行中の身です。記事が読みものとして評価に値するならサポート頂けると大変嬉しいです。 ご支援頂いたものはより良いものが書けるよう自己投資に使わせて頂きます。