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幻の味(塩辛くてカチカチの焼鮭)

実家は寿司屋だったので魚を食べない日はないというぐらい魚を食べていました。焼き魚、特に鮭が多かったです。情けないことに寿司屋の息子のくせに刺身がまともに食べられるようになったのは小学5年生からでした。母の実家の漁港の町で親戚に振る舞われた刺身が今まで食べたことのないうまさで驚愕しました。実家の寿司屋の刺身も市場で仕入れてきたものなのでまずいはずはないのですが、なんだろうなあ、それまでは極端に魚の生臭みが苦手でマグロも食べられなかったのです。母の親戚の家での刺身体験以降は何でも食べられるようになりました。なにごとにもきっかけというのはあるものです。

焼鮭はこれでもかというぐらい塩辛いのが普通でした。塩の塊を食べているのではないかというぐらいの塩鮭をカリカリに焼くのです。身を食べたら骨はお湯をかけてお吸い物のようにして飲むのが母や姉の習慣でしたが、私はそれはダメでした。なんかやっぱり微妙に生臭いうえに味がシンプルにすぎるというか。当時はよくわかっていませんでしたが、今となって思うと旨味成分が足りなかったのだと思います。

このカリカリの塩鮭、嫌いではなかったのですが、ある程度の年齢以降、特に実家を出てからは滅多に食べなくなりました。正確に言うと食べたくでも食べられないのです。なぜなら、近所のスーパーでは昔のあの塩の塊のような塩鮭を見かけることがないからです。近所のスーパーに限った話ではなく、多分、品揃え豊富な鮮魚店に行ったとしても昔みたいに塩まみれの塩鮭は売ってないんじゃないかなあ。ヘルシー志向なんだと思います。新巻鮭を手に入れたら昔みたいに塩分を控えていない塩鮭が食べられそうです。とはいえ、私自身も今となっては塩分過多で焼くとカチカチになる塩鮭よりも塩分控えめで焼いてもふわっと身が柔らかい焼鮭のほうが美味しいと感じます。

しかし、たまに昔のあの粉を吹いたような塩でカチカチの焼き過ぎた塩鮭が食べたいと思うことがあるのです。グリルでしっかり焼いても塩分控えめの鮭ではあの味にはなりません。これでもかという程の塩があってこそのあの塩鮭なのです。

食べたい。

昔みたいに一日に摂取する塩の量を遥かに超えていると思われるあの塩鮭を食べたい。

スーパーの塩鮭に後からこれでもかと塩をかけて焼いたりもしました。でも、違いました。多分、塩を擦り込んでから軽く干すという過程が必要なのでしょう。面倒くさすぎる。塩を振ってから出てきた水を拭いてさらに塩をしてから冷蔵庫で数日乾燥させるとか、そんな感じで再現できそう。でもなあ、実家の焼鮭、なんだかんだで市場で仕入れてきたそこそこいい切り身だったりしてたんだよなあ。だから骨がデカくて逆に食べるのに邪魔になるような骨がないというか。今となって思うと父が骨を処理していた可能性もあります。そういうのは職人なのでまったく苦にならなかったようなので。

今日の朝食は塩鮭でした。近所のスーパーで半額の切り身。しっかり骨を処理してありました。最近は「骨を処理してあります」みたいな切り身が増えて助かります。私はともかく、娘は小骨があると面倒で丸呑みするか食べないかの二択になってしまいます。なので、骨が抜いてあると安心して食べてもらえるのです。遅く起きた娘の分は私が朝のうちに食べた時よりもう少し焼いてからお茶漬けに乗せました。鮭茶漬け。スライサーで薄く切ったダイコンを甘酢で味付けた千枚漬けを添えました。

濃い味の塩鮭、そんなに食べたいかと言われると微妙ではありますが、なんだかたまに食べたくなるんだよなあ。年を取ったせいなのかなあ。

そうかもなあ。

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高島利行
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