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言葉通りの意味だったのかといまさらに知る娘の気持ちは手遅れというわけでもなくてだからと言ってなにかの役に立つこともなくそういうことで

昨夜、深夜に布団を取り替えにやってきた娘にトランクスとTシャツはどうか聞いてみました。

「いいよ」

本気で嬉しそうです。

「そんなに嬉しい?」

「嬉しいよ」

「なに、やっぱり男になりたいの?」

「男になりたいよ」

もうよだれが出そうな勢いの嬉しさ爆発顔でした。そうか、そんなに嬉しかったか、トランクス。

その前の話です。

昨日は(元)妻の誕生日です。朝、薬を飲んだ娘に聞いてみました。

「ママにお誕生日おめでとうって電話する?」

「いい。怖い」

そうですか。

(元)妻に電話するかと娘に聞くと必ず「怖い」と言われます。ママと離れて暮らすことになってしまったことを改めて認識するのは怖いよね、そうだよね。

娘に聞いたわけではありませんが、私はずっとそういう「怖い」だと思っていました。

しかし、今日になってふと考えたのです。そして小さかった娘の言っていたことを思い出したのです。

娘はよく学校の宿題を忘れたり悪い点数を取ったりすると「ママに怒られる~」と怯えていました。実際にはそんなことで怒られたことはないのです。最初のうちはどうしてそんなことを言うのか不思議でした。

ある時、娘の思う憧れのなにかに自分を重ねているのではと思いつきました。どうやら娘の言う「ママに怒られる~」はドラえもんののび太に自分を重ねているようなのです。娘はドラマや物語の登場人物に感情移入して自分を重ねるというのが大変苦手ですが、それでもぼんやりと憧れるということは確かにありました。この場合、のび太に憧れて自分を重ねた結果が「ママに怒られる~」だったのだと、私はそう理解しました。

それからも娘はしょっちゅう「ママに怒られる~」と繰り返しました。その度に、またのび太に憧れてんだなとこちらは思っていたのです。もちろん、「怒られる~」などと言われる理由に身に覚えのない(元)妻も私の解釈に納得でした。娘はのび太になりたいのか、なるほど。

ママに怒られるような年齢ではなくなってからも、娘はたまに「ママに怒られる~」的なことを言っていました。いや、もう今さら怒るとかないし、なに言ってんだか。こっちはそんなあしらいです。

一年前、(元)妻が突然出ていったあと、電話するか聞いた時、娘は「怖い」と言っていました。その「怖い」を聞いて、ママと離れて暮らすことになってしまったことを改めて認識するのは怖いよね、そうだよねと、娘にそういう感情があったことにやや驚きつつも、私は深く納得したのです。現実を受け入れるのは時に怖い、そういうもんだよなあ、その通りだよ。

さて、ほぼ一年経って誕生日に電話するか聞いた時も娘は「怖い」と言いました。今回も私は娘が現実を受け入れる怖さを感じているとそう理解してうなずいたのです。

それが昨日の話です。

昨夜に続いて今日の日中、どうやら本気で男になりたいと思っている娘がトランクスで満足していい気分になっているのを見ている時に、はたと気がつきました。というか、今までのことが急にはっきりと理解できたのです。

娘、ずっとママが怖かったんだ。子供の頃から今に至るまで、途切れることなく。子供の頃の「ママに怒られる~」も、一年前と昨日の「怖い」も、背景に憧憬や懸念やなにか複雑な感情があるのではなく、文字通り「怒られる」「怖い」と思っているんだ。

あれ、もしかして(元)妻いなくなって娘の切れ目のない恐怖も和らいでる…ってコト!?

思い当たるフシはあります。娘にママに会いたいか聞いても「いやあ……」といった反応です。あれもこちらが娘の中のなにか複雑な感情を勝手に思い描いていましたが、どうやら娘は本当にママに会いたくないんだな、怖いから。

一緒に暮らしている時に常に怯えていたとか、そういうことはないと思います。さすがにそれはないです。ですが、(元)妻の存在が娘の妄想になんらか影響を与えていた可能性はありそうです。確かに、娘の妄想独り言の中では私や祖父母よりも(元)妻の出現率は高いです。しかも漏れ聞こえる妄想の内容では娘に対して敵対する存在だったりすることも多々あるようです。

そうかー、娘、ずっとママが怖かったのかー。

なんか色々と腑に落ちるわー。

以前より薬を減らしたのに娘は最近落ち着きつつあります。(元)妻の不在がこれだけ続いて、娘の妄想を駆動する衝動のような何かが落ち着きつつあるということなのでしょうか。

ということは、もしかすると娘、私とも離れてどこかの施設で過ごしたらさらに落ち着くかも。母の存在だけでなく父の存在も娘にとっての潜在的な恐怖の対象だったりするんじゃないのかなあ。そう言われてみると病院に入院した時も最初しばらくは希死念慮があったせいで大変だったみたいだけど、そのあとは落ち着いていたみたいなんだよな。自分のことを知っている肉親と離れることで生まれる安心というのはあるかもなあ。

ここで、もうひとつ思い出しました。(元)妻がいた頃はしょっちゅう「家から出てひとりで暮らしたい」と言って暴れていたのです。(元)妻がいなくなってからも近所のお宅に助けを求めて駆け込んでという大変なことがありました。でも、あのあとは落ち着いています。家から出てひとりで暮らしたいとは言わなくなったのです。

あれもひょっとすると「怖い」ママがいなくなったことを徐々に認識して安心してるってことなのかも。

そうかも。

そうなのかも。

わけわかんないけど、

そうなのかも。

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高島利行
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