脂肪のない牛乳がまずいのは、元の牛乳がまずいから
牛乳は脂肪分が少ないとまずい、というのは多くの人に刷り込まれた定説だ。
これが定着してしまった理由が2つある。
ひとつは、市販されている脂肪分の低い牛乳が、悲しいことに事実まずいからだ。
美味しい無調整牛乳をつくる牛乳屋はあっても、美味しい低脂肪牛乳をつくる牛乳屋はほぼゼロ。
脂肪分(生クリーム)と脂肪のない牛乳(脱脂乳)の処理に困るからだ。
生クリームは単体で売ることもあるが、脂肪率を調整するとなると、小規模の技術では難しい。撹拌すればバターになる。しかし、これも市場でよく見る銀紙に箱形のものにするには、撹拌器とカット機能を備えた包装機が必要で、いずれも高額な投資を必要とする。
市場では圧倒的にバターの需要が高いのに対し、まずいイメージのついた脱脂乳はほとんど需要がない。脱脂乳から水分を抜くと脱脂粉乳になる、がこれも何千万という投資がなければ実現しない。
牛乳屋にとって、脱脂乳は忌むべきもの、というのが常識になっている。
だから、本気で脱脂乳と向き合う企業は少なく、脱脂粉乳にするか、とにかく安く低脂肪乳を作って安く売る。そこに美味しさという美学はない。普通の牛乳にどれだけ近くするかという努力があるだけだ。
低温殺菌なんて経費のかかる処理は以ての外、ということだろう。
もうひとつの要因は、現代人の味覚だ。
僕は、作った無脂肪牛乳を持ってスーパーで毎月試飲していた時期がある。老若男女さまざまな人たちが無脂乳牛乳を飲んで意見を聞かせてくれた。良い評価も悪い評価もあったが、どれもが美味しい牛乳をつくる糧になり、試飲させてくれていたスーパーにはとても感謝している。
一番驚いた言葉がある。
『味がしない』
すぐに飲んで確認したが、ちゃんと甘い味がする。しかも、甘さが際立つように常温にしているので余計に甘い。
味覚は、子どもが一番鋭く、成長するに従って鈍くなっていく。特別な訓練をしなければ子どもより味覚は鈍くて当たり前なのだ。それもあって、無脂乳牛乳を美味しいと言ってくれるのは小学生以下の子どもが多かった。と言っても、牛乳の風味も乳糖の甘さもしっかり残っているから、通常の味覚であれば十分感じられる。
そこにきて『味がしない』と言う。
僕は勝手に、ファストフードや激辛ブームの影響だろうと考えている。
恐ろしいのは、大人だけでなく、本当に、ごくたまに、子どもにも『味がしない』という子がいたことだ。
断っておくが、味覚は人それぞれで美味しいかどうかは本人の判断で間違いないと思っている。
美味しくないと味がしないは別だ。
子どもの時点で自然の糖分や塩分を感じられないのでは、大人になって病気になる確率も高くなるのではないかと思う。
食が溢れる現代にわざわざ脂肪が入っている牛乳を飲む必要はない。美味しければ無脂肪牛乳で良いのだ。
幸いに味覚は訓練していけば、ゆっくりだが、自然な甘さを感じられるようになるらしい。
子どもの味覚をつくるにも、極端に味の濃い食事から脱却するにも、低温殺菌の無脂肪牛乳はお勧めだ。