言語を超えたパターン認識
前回、美意識を磨くためには、数多くのインプットをして自分の中に判断軸を持つことが重要であるということを書きました。
そうすると「大量のインプットからパターン認識し、判断する人工知能は美意識を持っていると言えるのか」という疑問が出てきました。直接的にその疑問に解を出すのは難しいですが、今回は人間の理解力と人工知能について書こうと思います。
人工知能のパターン認識が人間の理解を凌駕する事例
人工知能が特定の問題においては人間を凌駕するというのは色々なニュースで知られていることですが、人間には「なぜそうなるかわからない」ような、理解の範疇を超えた事例もいくつかあげられます。
アルファ碁
Googleの開発したアルファ碁がトッププロ選手を破ったことは大きなニュースになりました。その後、アルファ碁同士の対局を行い、さらに学習を進めたところ、プロの人間が対局を見ていても何が起きているかわからないが、最終的にはめちゃくちゃに強いという状況が生まれたそうです。人間はストーリーや意味を考えながら打つ手を選びますが、人工知能はパターン認識から最善の手を選ぶためこのような現象が起きるとのことです。
データの見えざる手 小売店での事例
日立にてフェローをされている矢野氏が出版した「データの見えざる手」という本があります。本書では事例として、ホームセンターの売上改善策立案をAIと小売の専門家で対決させたケースが書かれています。
実験店舗を準備し、棚、カゴ、商品、従業員、入店する顧客等店内にあるものにセンサーを付け、そこから顧客、従業員がどの時間にどこでどのような行動をしたかについてのデータを蓄積します。そして、AIと専門家のそれぞれが売上改善策を立て、その結果どちらがより売上を改善したか勝負しています。
結果として、AIが圧勝したとのことです。AIはデータに基づき、特定の場所(ホットスポット)に従業員を立たせることにより、売上が改善するという仮説を立て、結果としてその施策により売上が大きく改善しました。
この事例においても、なぜそこに従業員が立っていると売上が改善するか、人間には理解できません。おそらく、そこに人が立つことによって、顧客の歩くルートや視線の流れ、他の店員とのコミュニケーションが変わるなど複雑な要素が絡んだ結果なのでしょうが、そこに論理的な説明をする事はできないそうです。
ネットフリックスのオリジナルコンテンツ作成方法
少し毛色は違いますし、人工知能は使っていませんが、ネットフリックスのコンテンツ作成にも人間の理解を超えたパターン認識が使われています。
ネットフリックスがオリジナルの大ヒットコンテンツ「ハウスオブカーズ」の制作に1億円を投じることを決定した背景には、ユーザーの閲覧履歴から以下のようなパターンを見出していたからだと言います。
1.多くのユーザーがDavid Fincherが監督を務めた”The Social Network”を最初から最後まで閲覧した
2.イギリス版の”House of Cards”も良く見られていた
3.イギリス版の”House of Cards”を見ていた人は、Kevin Spacey出演の作品とDavid Fincher作品を見る傾向が高い
このように、人工知能がパターン認識を用いると、従来はクリエイターの腕の見せ所であったオリジナルコンテンツの企画まで担えるということです。
上記にあげた事例からもわかるよう、従来、人間が仮説やストーリー、根拠に基づいて理解していたことを、人工知能は純粋なパターンとして認識することが可能です。したがって、大量のデータさえあれば人間には理解できないことまで再現性を持たせることができるようになるでしょう。
何が起きているかわからないブラックボックス状態のまま、人工知能を活用する成果は出せる。つまり再現性はあるけど、説明性はない状況を受け入れるのは大きなパラダイムシフトだと言えます。
言葉では説明しきれない世の中の真理は数多くありますが、人間はその歴史において、少しずつその領域を広げていくことで進化してきました。それがサイエンスであり、言い換えれば、説明性をつけることで再現性を高めてきたと言えます。
しかし、人工知能の発展により、説明性はないが再現性はあるという状況が、これからの時代どんどん生まれてくることが予想されます。その状況を嫌だと思うのか、最大限活用するのかによって大きな差が生まれるのではないでしょうか。
ところで、サイエンスの進歩と同じような構図が、暗黙知の形式知化という文脈でも語れます。
かつては経験則、長年の勘と呼ばれているものを形式知化することで、説明性、再現性を高めてきた。次回はこの辺について書こうと思います。
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