美意識のある組織と新規事業創出
今回は経営コンサルタントの山口周氏の著書について考察を書こうと思います。
「正解のコモディティ化」
本書の中では論理的に正しいことが絶対視された結果、みんな同じ思考プロセスを経て同じ結論に至る、結果として論理的に正しくても差別化できないという状態を「正解のコモディティ化」と呼んでいます。
私がコンサルティングをしていた中でも「ロジックはアイディアを説明する際のツールであり、それ自体は新たな事業アイディアを創出しない」ということを学びました。
もちろん、組織として合意を得ながら事業を進める必要があるので、説明性が高いこと=論理的であることは重要ですが、「非論理的」ではなく「超論理的」なところに新しい事業のアイディアはあります。そこには美意識に基づくクリエイティビティや一瞬のひらめきが求められます。
一方、論理は説明力が高いために、他の思考方法を淘汰しやすい。ひらめき、アートは論理の前に淘汰されてしまう。
新規事業を検討しているときも、「3年後に100億行くのか」「単年黒字化するのか」など既存事業の判断軸に基づいた判断をすることで事業アイディアが潰されてしまうケースを散見します。
新しいひらめき、ビジネスシーズは、新しいがゆえにまだ検証できない状態にあり、事業KPI、財務KPI で検証すると投資に至らない。
元BCGの北野唯我氏による以下記事の「凡人が天才を殺す」というのと同じ話かと思います。
新規事業を生み出す組織
本書のスピンオフ企画として、NewsPicks主催のWEEKLY OCHIAI「なぜビジネスパーソンにアートが必要なのか?」でもこのテーマが取り扱われていました。
番組内では著書『The Fuzzy and the Techiy : Why the Liberal Arts will Rule the Digital World』という本が紹介されていて、ビジョンを持ったFuzzyな人間が何をやるべきか「What」を決めて、それをTechyな人たちが実装する。つまりFuzzyなビジョンを殺すことなく、テクノロジーを活かして速攻で実装し、検証するということに言及されていました。
このように、論理的に正しいかを議論する前に、クイックにプロトタイプして検証するという、デザイン思考的アプローチのほうが不確実な現代社会には適しているということではないでしょうか。
同じような話を「起業の科学」の著者田所氏は3階建ての組織構造と言っていました。
つまり3階:事業シーズの創出、2階:立上げた事業を成長させる、1階:事業利益を最大化という3段階があり、それぞれにアプローチや意思決定基準は異なるべきであるということです。多くの大企業は1階の評価基準の中で新規事業を作ろうとするから失敗し、組織の箱として切り分けることが重要であるというメッセージだと理解しています。
また、Mixi元社長であるシニフィアン朝倉氏の著書「ファイナンス思考」ではPLばかりに囚われたために長期投資ができずに日本企業は衰退したと述べています。
もちろんPLは重要であり、利益を最大化する1階はPLベースで問題ないですが、事業成長を担う2階、新規事業を創出する3階が存在しなかったり、PL視点で運営すると長期的には衰退するということだと認識しています。
3階で生まれた事業アイディアを殺さない仕組み、2階、1階へとスムーズに橋渡しする仕組みが必要なのだと考えられます。
ひょっとすると古くからPPM、プロダクトライフサイクルで述べられているポートフォリオ管理をきちんと行おうという話なのかもしれませんが、色々な人が共通のことを述べており、実際それができている企業は勝っていることを考えるとひとつの真理なのだろうと考えています。
美意識に基づくファジーな仮説を具体化するためには、事前に入念にリサーチして評価するのではなく、短期間にプロトタイプを実装し、社会の中で検証、検証による学びのサイクルを繰り返す。このようなデザイン思考的、リーンスタートアップ的アプローチがこれからの世の中にはフィットしているのではないでしょうか。
とはいえ限られたリソースを筋の悪い新規事業アイディアに際限なく使っていては、会社はつぶれてしまいます。どうやったら美意識を持って、筋の良い事業アイディアを生み出すことができるのか。
次回はそのためのキーとなる「美意識」や絶対的軸を個人がいかに磨いていくかについて考察したいと思います。
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