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爽やかな血煙立つロードノベル、 筑前助広 「独狼 念真流無間控」 (いまごろかよ!)
いえね・・・去年、公私ともにいろいろありまして。
自分のことにばかりにかまけて視野狭窄状態、全くと言っていいほど人の作品が読めなかったのです。時間的に無理、というより精神に全く余裕がない感じ。とりあえず本を開いて、活字を目で追っても、心はうつろで意識がついていかず、もちろん内容は全く中に入ってこない・・・なので、楽しくない。その作品のせいではなく、自分のコンディションが悪くて、良い読書ができない状態に陥っていたのです。
年が変わってすこし余裕が出たのか、年末から数冊、読むことができています。そして、どれも面白い。うむ、感覚が戻ってきたということで、感想だけ書き留めておこうと思います。
今回の作品は・・・
筑前助広 「独狼 念真流無間控」
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・・・・。
「おい、今頃かよ!」
という、全力のツッコミが各方面から来そうです。
そう、私と(ほぼ)同期デビュー、わが盟友であり先駆者の初単行本を、わたし、刊行後4ヶ月経過してから読みました(殴殺
いや、買うには買って、アタマの部分だけさらさらと読んではいたのです。ただ、内容や世界観についてはあらかじめ(作者本人含め)いろいろなところからインフォメーションされていたため、まあ、ああいう感じだよね。筑前さんの得意分野だよね、ウン。という感じで(前記のとおり自分のコンディションが悪かったので)納得してしまい、未読のままつい後回しにしてしまっていたのですね。
(そんな状態でリツイしたりとか宣伝したりとか、今から思うとみなさんにもある意味不誠実で申し訳ない。が、結果的に何の問題もない=抜群に面白かったから勘弁ということで!)
内容は・・・まあ、インフォメーションされていたとおり、徹頭徹尾の血飛沫飛び散る殺戮絵巻でございます。
冒頭の芦尾弥左衛門からラストの二人まで、いったい何人斬ったか数え直したくなるくらいのキル・キル・キル!頭蓋を割る、そのまま全身を真っ二つに斬り下げる、仕上げに横薙ぎでピンと首刎ねる!
・・・このままDEEP-Lとかで自動翻訳してタランティーノのところに持ってけばそのままめっちゃハリウッドバジェットで映画化してくれるんじゃねえの、と思うくらいにキルビルしてます。あ、タランティーノもう映画撮らないんだっけ(←情報足らんティーの)。
特に中途の篠山あたり、勢力三つ巴でがっさがっさ殺し合う場面なんざ、もう正邪も敵味方もないひたすらな殺戮バトルロワイヤル360度ALL剣戟状態。あまりのSATSUGAIの連鎖とひたすら積み上がるデッドボディのインフレーションに、小心者の私なぞ、書き手のはしくれとして、つい物語の行く末を懸念してしまう(これ以上、どうやってドギツくするんだ!てか、どうやって結末つけるんだ)くらいだったのですが、いや、そこは筑前さん。さすが落とし所をわきまえてらっしゃる。
いえね、殺戮絵巻はほんの表面だけのこと。単なる真紅の彩りにすぎません。実はこれ、本質的に江戸時代の From 筑前 To 江戸 してる、さわやかなロードノベルなんですよ。
これだけ人が死んでて、爽やかとかいうなお前も筑前の同類か!とか詰められそうですが(まあ否定はしないw)、それぞれのSATSUGAIのシーンに、実はさほどの陰惨さは感じません。そこで躍動するKILLERども、どいつもこいつも人間の屑なのは確かなんですが、なんというかそれぞれの人生を生き、それぞれの理由で、ある種の覚悟というか諦念を持っている。
独狼に挑む。
勝てるかどうかはわからない。負けると確実に死ぬ、だがしょうがない。自分はそれでいい(でも挑む!)という、語弊を恐れずに言えば、命を賭けたデス・スポーツとしてのチャンバラ競技に参戦し、そして案の定、次々に散っていくというわけなのです。
あまりに数が多すぎて、どいつもこいつもいわばモブなわけですが、登場シーンは僅かでもそれぞれにしっかりとした貌(かお)があるので、名前は忘れても印象は残る。その覚悟や思いは読者の胸に刻まれる。そして旅は続く・・・この、それぞれの丁寧なキャラクターの仕込みが、一歩間違うとかなりとっ散ちらかったスラップスティック・コメディになってしまいそうな物語に、どしりとした品格を与えています。
そして、旅が進むたび次々と現れては消える刺客(モブ)たちに触れ、次々と斃れていく仲間たちの最後に接し、最初は感情移入のまるでできない、虚な完全キルマシーンだった独狼の心に、少しずつだが、わずかな変化が現れる。
これ、たぶんロードノベル、ロードムービーの構造と同じです。出発点と、終着点での主人公の心の変化や成長を描く、その多くはポジティブな方向性に向かうことの多い物語のテイストです・・・だから、読後感が陰惨にならぬのだと思います。
とても売れた作者の前作「颯の太刀」は、かなりわかりやすい若き剣士の青春成長譚でしたが、よりダークでダーティな「独狼」も、逆方向に行ってるようでいて、その本質はやはりポジティブな方向に向かう人間讃歌(?)なのでございます。
エピローグもさり気なくて、とても佳きですね。
「颯の太刀」に匹敵する、作者の堂々たる代表作だと思います。続編は作りにくそうな感じしますが、なに、緻密なプロットを事前にきちんと組み上げる人ですから、またどこかでさらりと生き残ったメンバーを登場させたりするに違いありません。
間違いのない傑作です。
未読の方は、ぜひ!
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