『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (9) 星を見る少年
明治34年7月に中金一が東京帝大の卒業証書授与式に臨んだころ、中先生は数えて17歳で、府立第四中学の第五学年に在籍中でした。中学時代の最後の学年にさしかかり、幼少期の回想に始まる「銀の匙」の時代が終焉を迎えようとしていた時期にあたります。
10年前の明治24年の4月に黒田小学校に入学したことは既述のとおりです。勘助少年は子供心にこれを嫌悪して、さんざんに抵抗したようで、その時期の心情は「銀の匙」に克明に描写されています。伯母さんに負われて姉の通う黒田小学校に弁当をもっていったことがあり、学校の様子はわかっていました。姉というのは5歳年長の次姉のちよ子さんのことと思います。
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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。
●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…
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