『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (140)うつせ貝
『しづかな流』は日記の形のエッセイ集ですが、日々の記録と随想に混じって歌と詩が随所に散りばめられています。思い出が歌われることもありますが、たいていの場合、詳細な背景が明かされることはなく、何事かが示唆されるだけにとどまっています。たとえば、手賀沼のほとりで詠んだ赤城山の鳥の声を歌う歌二首に山田さんの面影が込められていることは、山田さんの書簡を見る機会がなければ決して諒解されません。昭和4年4月17日には次に引く歌一首のみが書き留められています。
伊豆の海の夕べさびしみ妹にこひ声をほにあぐるまな鶴のさき
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1,020字
中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。
●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…
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