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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (81) 小三郎を思う
小三郎の死を伝える中先生の手紙を琵琶島で受け取った安倍さんは、気分がクシャクシャして蒲団をかぶって横になりました。胸中にやり場のない悶々があり、仕方なくまた起きて机にもたれてぼんやりしていると、涙が絶え間なくこみあげてきました。安倍さんはそんなふうに心情を吐露しています。
ようやく朝食をすませて木下をさまよっていると、小三郎の姿が浮んできました。安倍さんは明治37年の夏、7月のはじめに大阪に山田さんを訪ねたことがあり、そのおり小三郎に会っていて、星の多い夜、ひとり火の見に立ってさびしそうに空を眺めていた姿が思い出されました。
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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。
●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…
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