脚本家 × 作詞家 × 漫画家 × アナウンサー 対談② エンターテインメントの仕事の実務と作家性について ~脚本家の仕事~
それぞれの仕事の実務と仕事をしていて感じる世間のイメージとのギャップ
高瀬:アーティストとクリエイターというと、ほぼ同じような意味だと認識している人は多いと思うのですが、アーティストは自己表現で制作する人。クリエイターは、要望に応えて制作する人ということで、実際は明確な違いがあると私は思っています。漫画家が、1番オリジナリティーが求められる自己表現の仕事で、作詞家と脚本家はクリエイターとしての比重が大きいのではないかと想像しています。それぞれの仕事をアーティスト(自己表現)とクリエイター(求められているものに応える)という観点を軸にお話を聞きたいです。
脚本家の仕事…「オーダーに応えること」と「自由度」で言うと50:50くらい
小山:脚本家の自由度のギャップで言うと大御所で有名な脚本家さんですと、その脚本家さんの名前でキャストやスポンサーが集まることはあるのでそのような場合は、みなさんが思い描いているような作家として自分の表現したいことを表現できている人かなとは思います。でも実際は、ベテランの人でも基本的には主演の人がいてプロデューサーが企画を立てたある程度レールが轢かれている上でモノを作ったり、オーダーに受け答えをしていくことが脚本家の仕事です。細かい部分では自分で肉付けして考えたりするので「オーダーに応えること」と「自由度」で言うと50:50くらい。年齢とキャリアによって自由度は高まっていくイメージはあります。
高瀬:つまり、脚本家の仕事を知らない人にはオリジナリティーで自由に脚本を書いていると思われているのではないか、ということですか?
小山:それがジレンマなんですけど、打ち合わせを重ねていく段階で突然オリジナリティーを見せて欲しいと言われることもあります。同じ題材、同じ原作を扱っていたとしても脚本として出てくるものは、脚本家によって変わってくると思うんですよ。そういう意味ではオリジナリティーが必要になってくる部分もあります。
高瀬:脚本家になるための有名なシナリオのコンテストは、オリジナル作品で受賞を決めるものが多いですよね? オリジナルの要素も見ているけど、その他のところを見ているでしょうか?
小山:オリジナリティー溢れる企画ということで賞を取る人もいますが、基本的には脚本の賞で見られるのはセリフとか構成とか部分的なところだったりします。原作ものであっても戦力になりそうな人が受賞することが大きいかなとは思います。
高瀬:オリジナリティーよりもセリフや構成力の方が大事ということでしょうか?
小山:いや、全部ですね。総合的な能力を見られていると思います。審査員やそのシナリオのコンクールによって選考方針は違うので一概には言えませんが、セリフの部分はプロデューサーやディレクターは作れない部分なのでそこは重視している印象はあります。
高瀬:きっと色んな制約があって、1話がどのくらいの時間で全何話という尺が決まっていて来週も観たいと思わせなくちゃいけないという制約もあると思いますが、苦労していることはありますか?
小山:尺に関しては後でカットできるので、1時間をちょっと越えるくらいのものを書く程度でしたら怒られるようなことはないです。この物語の1話分の中でのピークはどこですか? 引きになる部分はどこですか? ということが1番言われます。プロデューサー、ディレクターも気にするし、脚本家も自身も気にしないといけないところだと思います。じゃないと視聴者も1時間何を見せられたんだ、作る側も何を発信してるんだと思ってしまうので。なので、制約があるおかげで助かっている脚本家は多いと思います。
高瀬:ドラマ1話分は大体どのくらいで書いていますか?
小山:すぐ書けるときあれば、悩むときもあります。最終回間際ですと、2日で初稿を書いてくださいということもあります。
高瀬:アニソンの歌詞を書くときにアニメのシナリオを読んで作詞することも多いのですが、大体のシナリオに決定稿が何稿目か書かれていることがほとんどで、初稿が決定稿というものをほとんど見たことがないのですが、ドラマも一緒ですか?
小山:大御所の先生でも3~4稿までは確実に書き直していると思います。ひどいときは10稿、20稿くらい書き直します。
高瀬:シナリオの打ち合わせにはどんな人が参加していますか?
小山:プロデューサー、ディレクター、脚本家、あと何人かいます。セカンドプロデューサーやセカンドディレクターもいることもあるので、最低人数3人、最大で7~8人くらいで打ち合わせをします。
村田:漫画原作の脚本も担当していますが、原作者と企画段階で打ち合わせすることはありますか?
小山:場合によります。実際に原作者の方にお会いしたこともあります。基本的にはプロデューサーが間に入って、原作者のご意向を編集者が研磨された形で伝言ゲームのような連絡のやり取りが多いです。
村田:脚本家さんとしては、原作者さんに会って話したいものですか?
小山:正直、脚本を見てもらうとサンドバッグ状態になるので、人数がひとりでも少ない方が、気が楽というのはあります(笑)ただ、原作者ならではのアイデアのおかげで映像化作品が面白くなることもあるので、会ってお話を伺いたいと思うことの方が多いです。
村田:フジテレビのヤングシナリオ大賞で大賞を受賞したからだと思うのですが、最初はフジテレビの作品をしばらく手掛けていて、徐々にTBSの作品も手掛けていますが自分から営業したりするのですか? それともスカウトですか?
小山:僕のように事務所に入っているとマネージャーが営業をかけてくれることはあります。ただ、基本的には脚本家自身が持ち込みをしたり営業をすることはないですね。自分でこの企画をやりたいと知っているプロデューサーに見せることはあるとは思います。でもやっぱり枠があって企画があってというのが基本です。
高瀬:では、脚本家から企画発信をすることはないということですね。
小山:やろうと思えばできると思います。ただ、今をやっている目の前の仕事にどうしても熱量やモチベーションが傾いてしまうので、物理的に難しいですね。忙しくてもやった方がいいとは思いますが。
平井:出演者は、脚本家から指定することはできますか?
小山:脚本家が仕事をするときにはすでに主演は決まっていることが多いです。とはいえ、「このキャラはどの役者さんのイメージですか?」と尋ねられることはあります。
平井:撮影現場に行くことはありますか?
小山:撮影現場に行くこともあります。現場に行くのは、好きな人と嫌いな人に分かれます。僕は行かない派ですが、外ではなくスタジオでの撮影のときに1回は絶対に行きます。役者さんと実際にお話した方が、浮かびやすいというのもあるので脚本を書くための素材や材料探しのために行っています。
対談③へ続く
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