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アマゾン提訴とV9に見る欧米と日本文化

 アマゾンが独占禁止法の疑いで提訴された。これまでもビックテックに対する訴訟が相次いでいるが、こうした動きを見ていると日本との文化の違いを感じざるをえない。

 欧米、特にアメリカは「公正な競争状態」にあることを何よりも重視しているように見える。しかし、日本は「公正な競争状態」よりも、聖徳太子以来の「和を以て貴しとなす」を大事にする国なのだろう。そんな事が提訴のニュースから見えてくる。

 昔、ジャイアンツがV9(9連覇)というとてつもない偉業を成し遂げた。しかし、この偉業自体が日本文化ならではなのだろうと思う。これがアメリカだったら3連覇くらいした時点で「公正な競争状態」になってないんじゃないかという疑念が生まれ、システムの改変が行われるのではないだろうか。

 メジャーリーグのシステム見ていても、同じことを感じる。どこかのチームが圧倒的に強い状態を避けるため、ドラフトの指名権は下位のチームから与えられるし、総年俸が基準を超えた場合はぜいたく税を取られて、資金力に乏しい球団に分配される。優勝争いから脱落したチームは中堅・ベテランの主力を放出して有望な若手とトレードする。
 これらは全て、どこかのチームが圧倒的に強い状態であり続けることを避け、下位のチームが工夫と努力次第で逆転可能な状態を担保しておくことを目指しているように見える。

 日本ではこういう観点からのシステム改変は行われない。ジャイアンツがV9した。人気球団が強いと日本中で盛り上がる。視聴率も取れる。人気のない他の球団もジャイアンツのおこぼれで観客が入って儲かる。みんなハッピー。このままでいいじゃないか。何が問題なんだ?こんな感じだろう。
 実際に日本のプロ野球では、未だに下位チームから優先的にドラフト指名権を得る完全ウェーバー制が導入されていない。以前は「自由獲得枠」などという金持ち球団に圧倒的に有利な制度すらあった。そもそも「公正な競争状態」をつくろうという価値観そのものが存在していない。それよりも「みんなが盛り上がる」方が大事なのだ(だからイノベーションなんて起こるはずもない)。

 スキーのジャンプや柔道なんかで日本人が圧倒的に強いとルール改正が入る。そうした際に必ず聞かれるのが「アジア人が強いと欧米人有利なルール変更が行われる」という意見だ。ルール変更の背景に人種差別的な感情があるということだと思うが、私はそうは思わない。
 もちろん、そうした感情・理由がゼロだとも思わない。しかし、有色人種が気に入らないからという単純な理由だけでやっているようにも思えないのだ。例えば、今やっているラグビーなんて、イギリス系の国が圧倒的に強かったわけだが、国籍に関するルール変更が行われて力の差が大きく縮まった。日本代表も16人が外国出身の選手だ。「白人が圧倒的に強い状態」を目指しているなら、こんなルール改正をする意味は全くない。

 つまり、「どこかの組織が圧倒的に強い状態」=「システムに欠陥がある」という思考なんだろうと思う。当然、ビックテックに対してもその思考は適用され、訴訟が相次ぐことになる。
 歴史的にみても古代のローマはそういう国であった。ローマは歴史上、最も長く繁栄した大国だが、その年月に比べて「英雄」の数は少ない。それは彼らが「英雄」という存在そのものを避けていたからだし、だからこそ繁栄が長く続いたとも言える。そして、その経験はあの大陸に集団的に蓄積され、アメリカにも受け継がれているのかもしれない。

 話を戻そう。アマゾンが独り勝ちしてボロ儲けをしている。でもアマゾンは安くて配送料は無料で便利。別に犯罪をしているわけではないし、アマゾン様が儲かってみんながハッピーだからいいじゃないか。
 欧米と違い、日本でのとらえかたはこんな感じだと思うので、提訴して懲らしめるべしという機運を醸成することすら難しい。別に「和」を乱したわけじゃないんだから。

 ただ、日本の残酷なところは「みんなハッピー」の「みんな」に少数派は入れてもらえないところだ。アマゾンの独り勝ちによって同業他社にはシワ寄せがいくし、配送を請け負っている中小企業や個人事業主は大変な苦労をしている。そうした方々は「みんな」に含まれず、そういう業界に入ったんだから仕方ないよねという「自己責任論」が適用される。

 結局、ジャニーズの問題、ジェンダー、バリアフリー、シングルマザー、ヤングケアラー、障がい者といった社会課題も全て根っこは同じなんだろうと思う。まぁ欧米型が全て正しいわけではないし、日本は日本で道を探せばいいと思うけど、この方式で行くならばもう少し「みんな」の幅を広げる必要はあるのではなかろうか。

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