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地域で共に考える「私たちの一流の会社」

2000年前後だろうか、「多様性」という言葉が日本でも広く使われ始めたのは。またその頃は、ちょうど「地方分権一括法」が成立し(1999年)、国と地方の関係を上下・主従の関係から対等・協力の関係にすることが定められた時期でもあった。「時代は中央集権から地方(地域)分権に大きく舵を切り始めた」という節目の空気を感じながら、漠然と「都会と田舎」「大手企業と中小企業」の比較と、それぞれに暮らす人々の多様な価値観の違いについて、思いを巡らせた。そして、私は東京での大手損害保険会社勤務に区切りをつけて、2000年春に甲府に戻った。

男女間で、家庭で、地域で、会社で、団体で、議会で、一つ一つの場面で起こる大人たちの言動に対し、「多様性の尊重」という観点から検討が始まって20年以上が経った。以前の日本社会に蔓延ったいわゆる「昭和的な常識や価値観」はことごとく疑問視されてきた。こうして働き方とか、LGBTQとか、いまでは個々人の人権や自由、組織内の民主的あり方について、日本人の意識と組織の体制がだいぶ変化したように思う。

ただ、私はいつも感じていることがある。それは「良い会社」や「一流の会社」に対する日本人のイメージは、一向に変わらないな、ということである。社員の働き方には、昔に比べてだいぶ自由度が増してきた。もちろん会社によって差はあるが、リモートとかフレックスとか育休とか、個々人の自主性が発揮されやすい組織に変化してきている。しかし、一般に「良い会社」とか「一流の会社」とか言うとき、つまりある会社(企業)の優劣を考えるとき、その評価するモノサシはどうだろうか。売り上げ、社員数、店舗数などの「規模(量)」に関する情報だけを頼りに、会社の優劣を評価していませんか?この多様性の時代に、会社のことになると「あの会社は大手だから安心だ」とか「都会の会社は凄い」とか、画一的な見方をしていませんか?これは資本主義社会である以上、仕方のない常識なのでしょうか?
この画一的な見方は、学生の就職活動に如実に現れる。就職活動の際にほとんどの学生が頼る就職情報が、結局はマイナビとリクナビに収斂されるという現実がある。大手企業も中小企業も、都会の会社も田舎の会社も、全て横並びで各社の「規模(量)」が数値化される。実に分かりやすい。各社の序列が一目瞭然だ。これに自分の学歴の序列を当てはめるわけだ。便利だ。でも、この分かり易さが罠である。それゆえに、学校の教育にもこのモノサシが持ち込まれ、大手企業に就職するにはより偏差値の高い大学へ、より偏差値の高い大学に行くにはより偏差値の高い高校へ、という具合に日本の教育も画一性が支配している。いったい多様性はどこに?
これ、私が学生だった30年以上前の状況と何も変わっていない。バブル経済期、それより前の高度経済成長期のモノサシがそのまま残っている。つまり、政治も経済も全てが中央に集まっていた(中央集権)時代の「中央のモノサシ」だ。私たち地方の、田舎の中小企業は、そんな画一的で大雑把なモノサシで生きていない。もっとずっと生き生きと、もっとずっと豊かに、もっとずっと自由に、量では測れない質的充実を測る「地方のモノサシ」で生きている。それにも関わらず、私たちは未だに中央・都会から与えられたモノサシで評価されて悔しい思いをしたり、劣等感を抱いたりしている。多様性とは名ばかりの建前で、実は世間の序列は決まっていて、できるだけ上位に行こうとするのが本音ということか。そろそろ私たち地方・田舎の側から、色鮮やかな新しいモノサシを示していこう!

この私の問題意識を共有いただいた山梨総合研究所の調査研究部長の佐藤さんを中心に、同所の研究員の皆さん、それから私が属す山梨県中小企業家同友会 政策委員会の皆さんと、この3年間自主研究を進めてきた。詳細は山梨総合研究所の4年間の報告書(令和2年度令和3年度令和4年度令和5年度)をご覧いただきたいが、それは「地域の中小企業がどうあるべきか?」を自問自答する作業だった。そして「よい仕事・よい暮らし」を経営側からも従業員側からも多様性の観点から問い直してみる時間だった。
ここで敢えてまとめるならば、地域の中小企業が目指すべきカタチは、「自立」「自律」した経営であり、そのために地域独自の資源(人・モノ・カネ(市場))を自覚的に活かすことだと定義されると思う(この経営を私たちは「地域資源経営」と名付けている)。しかし同時に、このように抽象的にまとめても意味がない、ということに気づく。

従来の「規模(量)」という「中央のモノサシ」は具体的で分かりやすく、会社に対する私たちの価値観を長らく支配してきた。それに対して「地方のモノサシ」とでも呼ぶべき新しいモノサシは、まだ私たち地方の人々の潜在意識にあって、それを顕在化しなければならない。これから具体的な事柄を示していって、少しずつみんなに気づいてもらい、共感してもらうことから始めなければならないからだ。

それならば、まずは地域の中小企業のことを、その地域の中で知ってもらう機会を増やしたい。そもそも中小企業は大企業に比べ売上は低く、社員数も少なく、知名度は圧倒的に低い。知ってもらわなければ、評価のしようがない。例えば、人手不足だからこそ、地域の人材育成に力を入れている会社がある。大量生産はできなくても、地元の誇れる産物を丁寧に供給する会社がある。大市場の不特定多数を対象にするのではなく、つながりと信頼を大切に満足度の高いサービスを提供するお店がある。それらの総体がこの地域の経済を支えている、という事実がある。世間はこの事実を毎日見ているはずなのに、何も知らない。それが自分の住む地域にとってどんな価値があるのか、考えたことがない。それを見て感じるだけのモノサシがないからだ。

いま私たちは、高校生向けのキャリア形成の教育分野でインターンシップ制度がつくれないか、と検討している。それを通じて、仕事というものを少しでも意識し始めた高校生はもちろん、高校の先生にも、また高校生の親にも、そして地域の行政職員にも、私たち地域の中小企業の営みを知ってもらいたい。知ってもらって、いままで見えてなかったその価値を、みんなで一緒に考えたい。この試みのポイントは、五者で学びあうということだと思う。この時代の「いい会社」や「一流の会社」はどんなところなのか、共に学んで共につくっていきたい。

山梨県中小企業家同友会 政策委員会委員長
笹本環境オフィス株式会社 代表取締役
笹本 貴之


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