![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69580806/rectangle_large_type_2_422f5808d02c85f4fdb1c4f74abd7cfc.jpg?width=1200)
このらせんの先に
時折目の前を揺らぐ、霞のような、雲。
どこからともなく、小さな子供たちの笑い声が聞こえる。
あの、笑い声は。
これから生まれる喜びを、隠しきれずに、いや…隠そうとすら思わずに……周りに振り撒いて、いるのだ。
…ここは、一つの人生を終えたものが来る場所。
人は、一つの人生を終えた時、肉体より魂を離脱し、この場所へとやってくる。ぼんやりとした雲が漂うこの空間には、大きな螺旋があり…そのらせん状の雲の上を進むことで、終えた人生の記憶を失う。螺旋の始まりはぼんやりした雲の欠片。そこに足を踏み入れた魂は、新しい人生を歩むために、一歩づつ螺旋の道をたどって記憶を消しながら…前に、進む。そして、一歩進むごとに、命を蓄えていき…螺旋の端に着くころには、魂は生まれることのできる命を纏っているのである。
一刻も早く生まれるために、終わった人生など知ったものかと、走っていくものがいる。
自分の人生を振り返りながら、一歩づつ噛みしめるように踏み出すものがいる。
ただ、前に進まなければならない状況に流されるものがいる。
私は、この場所で。
一歩も進むことができずに、いる。
とても、とてもかなしい出来事があって、どうしても、前に進むことができない。
たくさんの、魂が、横を通り過ぎていく。
たくさんの、命が、走り抜けていく。
たくさんの命を求める魂が、立ち止まる私を気にせず、先に行く。
命の意味、生きる意味。
感情という、重い、重い枷。
喜びを得るために悲しみを得る。
喜びを得るために怒りを得る。
喜びを得るために嘆きを得る。
喜びを、得るため。
……喜びを、得るため?
悲しみを得るために生きる者もいる。
怒りを得るために生きる者もいる。
感情を得るために、生きたいと願い、皆生まれようとして。
この、螺旋を、行くのだ。
感情があるから、この道を行かなければならない。
感情を得るために、この道を行かなければならない。
感情が、人を支配している。
感情がなければ、この道を行こうと思わないのかもしれない。
なぜ、感情が存在しているのだろう。
なぜ、人が存在しているのだろう。
なぜ、命は繰り返すのだろう。
私は、生まれないという選択をしてもいいのではないか?
立ち止まる私の中に、いつまでも悲しみが残り、自問自答が繰り返される。
……答の出ない問いに、応えるものは、自分しかいないのだ。
私の横を通り過ぎてゆく、様々な、魂。ずいぶん命を纏っている者もいるし、まだ魂のままの者もいる。
何人も、何人も、私の横を通り過ぎていく。
「ねえ、行かないの?」
一人の魂が、私に声をかけた。誰かと話をするなんて、信じられない。私の声は、出るのだろうか。出ないかもしれない。そんなことを考えていたら、声をかけた魂は、先に行ってしまった。
私の横を通り過ぎてゆく、様々な、魂。
何人も、何人も、私の横を通り過ぎていく。
「あ、まだいる、行かないの?」
一人の命が、私に声をかけた。誰かと話をするなんて、信じられないけれど。声を、だしてみようか。出ないかもしれない、でも。そんなことを考えていたら、声をかけた命が、横で立ち止まった。私の言葉を待っているようだ。
「うん、行かないの。」
「ふうん。」
私に声をかけた命は、再び前を向いて駆け出した。
私の横を通り過ぎてゆく、様々な、命と魂。
何人も、何人も、私の横を通り過ぎていく。
「あ、まだいる、どうして、行かないの?」
一人の命が、私に声をかけた。なんて答えようか。声をかけた命が、横で立ち止まって、私の言葉を待っているけれど。
「悲しいことがあったから、いきたくないの。」
「ふうん。」
私に声をかけた命は、再び前を向いて駆け出した。
私の横を通り過ぎてゆく、様々な、命、魂、命、魂…。
何人も、何人も、私の横を通り過ぎていく。
「あ、まだいる。」
一人の命が、私に声をかけた。この命は、私を追い越していくたびに、声をかける。何度も追い越して、何度も生まれて、ここに戻ってきて、その、繰り返し。生まれるたびに、魂が成長している。初めて見かけたときは小さな子供だったけれど、いつの間にか私と同じくらいの大きさになっている。…きっと生まれてたくさん経験を積んできたのだろう。
「一緒に行こうよ。」
立ち止まった命が、私を誘う。
「行きたくないの。」
立ち止まった命は、立ち止まったまま。
「一緒に生きようよ。」
立ち止まった命が、私を誘う。
「生きたくないの。」
立ち止まった命は、立ち止まったまま。
「大丈夫、一緒にいるから。」
「でも。」
立ち止まった命が、私の手を取って、一歩、踏み出す。
私の足が、一歩、前に進んだ。
私の中の、悲しい記憶が一つ、消えた。
立ち止まった命が、私の手を取って、さらに一歩、踏み出す。
私の足が、さらに一歩、前に進んだ。
私の中の、悲しい記憶が一つ、消えた。
一歩、一歩、進んでいくたびに、悲しい記憶が一つ一つ消えていく。
私を震え上がらせた人の顔が思い出せなくなる。
私を泣かせた人の顔が思い出せなくなる。
私を叫ばせた出来事が思い出せなくなる。
私を無言にした世界が思い出せなくなる。
私を雁字搦めにした感情が思い出せなくなる。
ドンドン足が軽くなっていく。
一歩一歩進んでいたけれど、いつの間にか、私は走り出していた。思いっきり走る、螺旋の道は、とても、とても気分が良くて。あっという間に、螺旋の端に着いてしまった。
螺旋の端には、生まれゆく扉がある。この扉を抜けて、命は体に宿り、人生をスタートさせる。一人で、人生を歩んでいく。たった一人で、命を最後まで生きなければならない。
時には誰かに力を借り、時には誰かを助け、同じ命を持つもの同士が、同じ命を持つものとして、すべきことをしながら人生を送るのである。
私と手をつないでいる、この命は、私を動かしてくれた命。私をここまで連れてきてくれたのは、私と手をつないでいる、この、命。
「一緒に生きていけるように、手をつないで生まれていこうよ。」
「…うん。」
私は、きちんと生きていけるだろうか。
うまく生きることができないかもしれない。
難しい局面に向き合うかもしれない。
忘れてしまった、悲しみに再び出会ってしまうかもしれない。
同じ命を持つもの同士、寄り添う事も、競う事も、反発することも…ときには命を奪い合う事さえあるだろう。
不安を胸に、扉に飛び込む。
明るい、明るい光が、私を包んだ。
────────────────────────────────────────
あかるい、あかるいひかるは、いつも、わたしのそばにいるの。
「あかりー、ひかるー!こっちこっち!!」
「撮るよー、はいチーズ。」
きょうから、ようちえんにはいる、わたしとひかる。パパとママがかっこいいふくをきて、カメラをかまえてる。ようちえんのいりぐちで、ふたりでならんで、てをつないで、しゃしんをとってもらったよ。
「あ、みてみて、ふたごだ、かわいい!!」
たくさんのこどもやおとなが、わたしとひかるをみてなにかいってる。ちょっとだけ、やだな、でも、だいじょうぶ。となりにひかるがいるから。
わたしのほうがおねえちゃんなのにって、よくいわれるけど、ひかるはいつもてをつないでくれるの。だから、だいじょうぶなの。なにも、こわくないの。
「ホント仲いいわねえ、あんたたち…生まれて来た時も手をつないでて…。」
「あれは本当にびっくりしたね!!」
パパとママがわらってる。
「もうなんかいもきいたよ!!」
わたしは、ひかるとてをつないで、ぶらんこのほうにいく。
「あかり、さきにのっていいよ!」
「ありがとう!」
ひかるがつないでいたてをはなして、そっと、わたしのせなかをおしてくれた。ゆらり、ゆらりとゆれるぶらんこ。みあげると、とってもあかるい、たいようのひかりが、めにはいった。
すごく、すごくあかるいひかりは、すごく、すごくまぶしくて…。
まぶしすぎて、ちょっとだけ、なみだがでちゃった。
なんで、なみだが、でちゃうのかなあ…?
いいなと思ったら応援しよう!
![たかさば](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64122049/profile_d5e79b5a7e52c4e9628319e242a2c5fc.jpg?width=600&crop=1:1,smart)