ごわつく猫
うちにはやけに見目麗しい猫がいる。
白キジの二歳の雄猫である。
鼻も肉球もピンク色で、真っ白な腹毛とアシンメトリーなアーム部分の雉模様がチャーミングな、どこかまったりした空気を纏う、若いくせに侘び寂の神髄を知っているかのように落ち着き払った猫だ。
我が家の猫は実に黒色率が高い。
黒猫4、キジトラ3と白い毛を持つものがいない中、たった一匹で奮闘する孤高の猫である。
皆が黒い肉球を持つというのに、たった一匹桜色の肉球を保持するという、非常に特別感を漂わせる猫である。
パッと見めちゃめちゃオシャレというか、王子様っぽいというか、貴族っぽいというか、とにかくこう、雅な佇まいで、猫好きの人のみならず普通の人たちまで思わず触りたくなるような、魅惑の猫である。
ノラ猫出身とは思えない甘えっ子っぷりで、チャンスを見つけてはすぐに膝の上に乗ってくる、実にあざとい猫だ。
人が好きで好きでたまらないらしく、人に触ってもらうために腹を丸出しにしてはゴロゴロとのどを鳴らす猫だ。
……目の前にモフがあれば、もふらずにはおられまい。
その白い腹を、徹底的に愛で倒させていただくのだが。
どうにも…ごわつくのである。
確かに手触りは、イイ。
しかし、毛の一本一本が、その麗しい見た目にそぐわないレベルで、かたいのだ。
いうなれば、マシュマロとグミのような、手芸綿と布団綿のような、ストローとタピオカストローのような、砂と砂利のような、そうめんとうどんのような、面相筆と平筆のような、やんちゃな幼児とくたびれたおっさんのような、可憐な乙女と強欲ババアのような……、手触りの違いが、ある。
雄猫だから、組成成分がたくましい?
いや、他にも雄猫はいるが、こんなにごわつくものはいない。
我が家を訪れる皆さんが必ず撫でたがる人気ナンバーワン猫にして、我が家で一番のさわりごこちの悪さを誇る猫である。
「なんか…思ってたのと、違う…。」
「あ、じゃあね、この姐さんを撫でてみて?」
「いや、…なんか黒猫って怖いからいいや。」
「この子さわりたい!」
「この猫がいい。」
飼い主イチオシの手触りのよさを誇る猫を差し出してもなお人気を集める、ごわつく猫。
「やけにさわりがいのある猫だよね。」
「なんか手のひらが負けてる……」
「普通に撫でてるのに逆撫でしてるみたいだ…。」
「見た目はアンゴラ、実態は雑巾みたいな…。」
「豚撫でてるみたいだけど、猫だよね?」
ひどい言われようである。
だがしかし、風評などどこ吹く風で、ごわつく猫は腹をさらけ出し、今日も大胆なポーズで人の手を待つのだ。
……なんと言うけなげな。
……けなげ?
いや、この猫にそんなしおらしさは感じない。むしろ堂々とした空気を感じる。それどころか、スマホをいじる手のひらに向かって、頭突きをかまして来るような図々しさが!
……ちょ!勢いで変なボタンクリックしちゃったじゃん!なんかツイッターの表示がおかしなことにー!
焦ってじたばたする私には目もくれず、ぬるぬると頭を撫で付けるごわつく猫!
「……。」
「にゃ。」
「にゃあー!」
「……やーん。」
そして私もお撫で下さいと近づく猫、猫、猫、猫……!
我が家は、ちょっと気を抜くとあっという間に猫どもが集ってくるのだ。
「あーもー!わかった、わかったってば!」
ツルツルした猫も、ほこほこした猫も、さわり心地ナンバーワンの猫も、ばさつく猫も、ごわつく猫もきっちり撫でて、……そうか、そろそろご飯の時間か。
私は猫の皆さんを一通り撫でたあと、ソファから立ち上がり…キッチンへと向かったのであった。
地域猫の背中を撫でさせてもらった時と同じ手触りなんですよ。あれかなあ、外暮らしをすると決めた猫には、猫の神様から防御力の高い毛皮を付与されるシステムみたいなもんがあるんかね…。