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【読書メモ】経験学習のレビューがとにかくすごい!:『管理職コーチング論』(永田正樹著)

学術書や博士課程論文がありがたいのは、先行研究パートに厚みがあるからであり、すなわち、その書籍や論文で扱っている概念を深く理解できることです。永田正樹さんの『管理職コーチング論』の第2章では、経験学習リフレクションを丁寧にレビューしていて大変勉強になります。

経験学習の祖・デューイ

経験学習の理論の大元となる考え方を提示したのはジョン・デューイだとされることがよくありますが、本書でも同様です。それに加えて、リフレクションという概念の創始者であるともされています。

デューイが経験学習の理論として提示したのは、相互作用の原理連続性の原理という二つの原理だと著者は整理しています。

相互作用と連続性は、経験の縦の側面と横の側面である(Dewey, 1938)。すなわち、ある状況において、主体的・自律的に学んだ知識や技能が、それに続く状況を理解し、効果的に処理する道具になるという意味において、相互作用の原理と連続性は密接につながっているといえる。

p.66

ショーンが焦点を当てたリフレクション

相互作用と連続性からなる経験学習というプロセスにおいて、リフレクションの重要性を指摘したのがショーンだとしています。

 デューイ(Dewey, 1933)の考え方に影響を受け、行為の最中に不確実で不安定な独自の状況と対話する「行為の中の内省(reflection in action)」の重要性を提示し、経営組織論の分野でリフレクションの概念を深めたのがショーン(Schön, 1983)である。

p.67

併せて、リフレクション・プロセスにおいては、「主体的かつ謙虚な気持ちで疑問を抱く「情熱的な謙虚さ(passionate humility)をもって関わるべきである」(p.68)として、学習者の主体性や能動性を重視しています。

実践へと繋ぐ3つのモデル

経験学習とリフレクションという概念を用いて実践に活かす主要なモデルとして、コルブの経験学習モデル、ギブスのリフレクティブサイクル・モデル、コルトハーヘン他のALACTモデル、が挙げられています。これらを比較検討しているのが興味深く、以下の比較表が素晴らしすぎます。

表2-2(p.79)に一部加筆

この比較表をもとにしながら、詳細は本書の第2章をよく読んで、それぞれのモデルについて理解を深めたいと思います。

概念の説明範囲を理解する

組織で働いていると特定の事象に対して解決策を求められることが多々あります。そうしたときに、同じような事象に直面している他社の事例を求めるきらいがありますが、他社事例をそのまま活用できるケースは極めて限定的です。取り巻く状況や与件が異なるのですから当たり前ではあります。

こうした時に、自社が直面する事象について抽象化することが必要であり、そのためには概念や理論を知ることが有用です。なぜなら概念は事象を理解するレンズのような役割を果たすものであり、概念間の関係性を整理するものが理論だからです。抽象化してポイントを理解することで初めて、他社の事例を活用することができます。自分自身で手足を動かし頭を使わないかぎり、活用できる概念や事例は存在しません。

自社で起きている事象や他社における事例に向き合うために、概念や理論を理解することが重要であり、その一環として本書のような優れた学術書を読むことは大事なのかもしれません。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!

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