【読書メモ】研究と人生をつなぐ:『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大著)
阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の全章まとめもいよいよ最終章になりました。最終章のタイトルは「研究と人生をつなぐ」というやや壮大な内容になっています。なぜ研究するのかという本質に迫る興味深いものでした。
長期的に関心が向くこと
章のタイトルは一見すると重たいものですが、その通りの内容です。内容を読んだ上でカジュアルに言い換えるとしたら、過去から現在にわたってこだわっていたり怒りをおぼえるなど強い関心が向いている対象が研究テーマや研究上の問い(リサーチ・クエスチョン)につながるかもよ!?、という感じです。
著者はこれまでの章において、論文を書くうえで問いは必ずしも必要ない、ということを述べておられました。この章でもそのスタンスは変わりません。ただ、一つの論文という枠にとらわらず、自分の研究人生というロングスパンで捉えた場合に、自分自身が何を社会に対して届けるのかが大事であり、その際に自分自身の日頃からの問題意識が長期的な研究上の問いになりえるという位置付けのようです。
ギャップを見つければ良いわけではない
では著者はなぜこのようなことを本書の最後の章でアドバイスしているのでしょうか。それは、目の前の論文に焦点を当てて学会誌に載せるという目標に焦点を当てすぎると、視野が狭くなり面白い研究にならないからです。
研究プロセスには先行研究というものがあります。これは本書でも挙げられているもので真っ当なステップの一つです。ただ、先行研究に意識が向きすぎると、既存の研究で扱われていない穴ボコを探す(ギャップ・スポッティング)ことに汲々としてしまうリスクがあります。この危険性については、『面白くて刺激的な論文のためのリサーチ・クエスチョンの作り方と育て方』でも挙げられていました。
この罠に陥らないようにするためにも、目の前の短期的な目標ではなく、中長期的なスパンで自問自答することが大事になると著者はしているのです。
自問自答
長期的な視野で自分自身の関心を問うためにはどうすれば良いのでしょうか?
「特定の対象に惹かれる」ということは、まず自分自身がこだわって自然と時間を割いてしまうものに自覚的になることです。ポジティヴな感情と共に時間を費やしてしまう対象や行動は、自分自身の前向きなこだわりを意味するものであり、こうした点から自身が研究したい大きなテーマを見出すこともできるとしています。
他方で、怒りや反発といったネガティヴな感情をどうしても抱いてしまう対象というのもヒントになるようです。ポジティヴもネガティヴも、エネルギーが向かう対象というものは長期的に取り組みたい何らかのテーマを持っている可能性がある、ということなのでしょう。
本書の全章を数回にわたってまとめてきました。最後まで目を通していただき、どうもありがとうございました!