【論文レビュー】研究結果とともに研究プロセスについても勉強になる論文:Ishiyama(2023)
石山先生の海外ジャーナルで採録された論文を拝読しました。日本の学術誌に投稿するのに四苦八苦している身からすると、雲の上の存在のようで大変勉強になる論文でした!オープン・アクセスなので、どなたでもダウンロード可能です。ジョブ・クラフティング、ナレッジ・ブローカリング、越境学習、ワーク・エンゲージメントのいずれかに興味がある方は、ぜひお読みになることをオススメします。
結論
結論部分については、以下の図をご覧いただくのが最もわかりやすいと思われます。ポイントは二点でしょう。第一に、ジョブ・クラフティングは、タスク、関係、認知の三次元で構成されますが、そのうちの認知クラフティングがナレッジ・ブローカリングとワーク・エンゲージメントとを媒介するということです。
このナレッジ・ブローカリングとは、ざっくり言えば、複数の共同体に同時に所属しそれぞれで得た異質な知識を融通する行動のことで、越境学習の文脈でよく使われる概念です。このナレッジ・ブローカリングからワーク・エンゲージメントに直接影響を与える点が明らかになった点が二つ目のポイントと言えます。
実践的示唆
では、このような知見がどのように職場の現場で活きるのでしょうか。著者によれば、組織内外での知見を融通するというナレッジ・ブローカリング行動を高年齢雇用者は継続的に行うことが有効だとしています。こうした行動が、認知の枠組みの捉え直すことを促し、エンゲージメントの向上につながるためです。
職務自体を工夫して変えるタスク・クラフティングと比較すると、この示唆が意義深いことがわかりやすいでしょう。つまり、実際に仕事を変えてみることには部内外での様々な調整が求められますが、認知クラフティングであればそのような作業は不要あるいは少なくて済みます。高年齢雇用者が働きがいを高く持って働く上でヒントになる捉え方と言えそうです。
二時点調査
これ以降はややマニアックな感想になります。論文を書いたり手直ししたりしている身としては、大変勉強になる点が少なくとも二つありました。
まず、ニ時点調査についてです。因果推定を行うことと、コモンメソッドバイアスを回避すること、という二つの目的を果たすために二時点での調査を行っています。注目するべきはその間隔です。高年齢雇用者のジョブ・クラフティングの効果を明らかにする目的で、T1とT2との間を一年三ケ月も取っています。T1で回答した1,527名のうち、1,467名がT2でも回答していて、96.1%も残っている点もすごいですね。
モデル適合度の判定
次に興味深いと感じたのはモデル適合度の判定についてです。SEM(構造方程式モデリング)で導き出されたモデルがどの程度適合しているか、を判定することが研究では求められます。本研究では、ジョブ・クラフティングの三次元構成について、一次元構成とモデル適合度を比較し、その結果を踏まえて三次元構成であることが認められたと結論づけています。
尺度構成をする際にこうしたプロセスを経ることは普通ではあるものの、論文内でそれを明記されている点に著者の記述の丁寧さが感じ取れ、また尺度構成を今後行う上での勉強になりました!
論文タイトルでググればすぐに出てきますが、念のためダウンロードできるサイトを以下に示しておきます。