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【読書メモ】『自律する組織人:組織コミットメントとキャリア論からの展望』(鈴木竜太著)

だいぶ久しぶりに鈴木竜太先生の『自律する組織人:組織コミットメントとキャリア論からの展望』を読み直しました。ここでは組織コミットメントに焦点を当てて感想を書きます。

組織コミットメントの3つの下位次元

組織コミットメントは個人が組織に対していだく心理を表す概念です。諸説ありますが、下位次元として、①情緒的コミットメント(従業員の組織への感情的な愛着、同一化、そして積極的な関与)、②継続的コミットメント(従業員が組織を去るときに発生するコストに基づくもの)、③規範的コミットメント(組織に居続けなくてはならないという義務感からくるもの)、という三つで測定できるとされています。

上の三つの分け方および定義はMeyer et al.(1993)によるもので、同論文を以前まとめたことがあるので詳しく知りたい方は以下をご笑覧ください。

組織コミットメントが変化する時

では組織コミットメントはどのようなタイミングで変化するのでしょうか。

組織コミットメントが転機によって変化するのは、そこで組織と個人の関係を考えるきっかけが生まれるからである。

p.81

著者の解説は極めてシンプルでありながら納得感があります。訪れる転機によって変化する可能性があるとしていて、企業組織で考えれば異動や昇降格によって組織との関係性について考え直す機会が生じ、その結果として組織コミットメントが変化するきっかけになるとしています。

長期的にはJ字型カーブを描く

組織コミットメントは状態を表す概念なので短期的に変化するものです。そのきっかけが転機であるというのが上述した内容です。他方で、長期的にはJ字型カーブを描くというのが著者が提示しているものです。

多くの人の情緒的コミットメントがJ字型のカーブを描くのは、組織イメージは各人にとって主観的なものであるが、提供される情報や経験が同じであれば、組織イメージは同じものになりやすいからである。

p.85-86

その理由として、同じ組織で働いていると組織に関して提供される情報や経験が似たようなものになり、その結果として組織に対していだくイメージは大まかには同じようなものになるとしています。

日本企業ではJ字型になる理由

組織に参入して働き始めるとリアリティ・ショックと呼ばれる入社前に抱いていたイメージとのギャップからショックを受けて組織コミットメントが低下する時期が訪れます。しかしその後も同じ企業で働き続けると徐々に組織コミットメントは高まっていくとしています。これが組織コミットメントがJ字型になる理由なのですが、なぜ勤続年数が増えると組織コミットメントが高まるのでしょうか。

 組織と長期的な関係を前提にしているのであれば、組織の価値を積極的に受け入れ、理解しようとするだろう。自分が長く勤めるかもしれない会社が何を考えているのか、どのような方向に進もうとしているのか、気になるのが普通である。また、明らかに誤った方向に進んでいないかぎり、いろいろな機会を好意的に捉えていくであろう。
 このように、一つの組織に長くいればいるほど、転機や経験をより好意的に解釈するようになる。結果として、組織に長くいて多くの経験をすることによって、組織へのコミットメントが強くなるのである。

p.92

著者が本書における調査を行った2000年代は、長期雇用が必ずしも前提ではなくなった時代です。この時期においても長期的には組織コミットメントが高まる傾向にあるというのはなかなか興味深いものがあります。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!


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