【論文レビュー】キャリア理論の現在地。:Savickas et al.(2009)
本論文では、2000年以降の職務を取り巻く変化を踏まえてキャリア理論はどうあるべきかが描かれます。20世紀のキャリア理論から何がどのように変わるのかについて五つの観点で解説しながら、今の時代におけるキャリア・カウンセリングのステップの提案まで行っています。
Savickas, M. L., Nota, L., Rossier, J., Dauwalder, J. P., Duarte, M. E., Guichard, J., ... & Van Vianen, A. E. (2009). Life designing- A paradigm for career construction in the 21st century. Journal of vocational behavior, 75(3), 239-250.
①特性・状態性からコンテクストへ
従来のキャリア論では、客観的なテストの数値に基づいた静的で、抽象的で、過剰にポイントを絞ったプロファイルに基づいてクライアントの特性や状態性を理解することが重視されていました。
しかし、環境や職務が変わる中で、それに対して適応するために個人の状態性は変化します。そのため、クライエントが持っている物語から引き出される変化のパターンを理解するというコンテクスト重視のアプローチが求められています。
②一回の処方からプロセス支援へ
カウンセリングの場でクライエントに対して助言・支援を行うことで解決するという考え方が従来にはされていましたが、絶え間ざる変化が前提となっている現代においては一回の処方では対応できません。
そこで単発ではなくプロセスとして人の対応を捉える必要があります。クライエントが自身の生活全般に対して取り組めるように、自分自身で課題を解決し、行動計画を立てることを支援することが求められます。
③線形的な因果関係から非線形的なダイナミクスへ
変化が激しいということは予定調和的で先が見えやすいという従来の与件が変わったことを意味します。つまり、将来から逆演算式に現在の最適解を導き出すというアプローチが機能しづらくなりました。
そこでクライエントの視野を広げることで、カウンセラーがクライエントと共同して生活全般のデザインを変化を踏まえて柔軟に支援していくことが重視されるようになっています。
④科学的事実からナラティヴな意味解釈へ
もちろん科学的に実証されたデータには価値があります。ただ、そこに過剰に重きを置くかつてのマッチング型のキャリア理論には限界があります。
データを過剰に重視するのではなく、クライエントに今現在起きている意味解釈の構築や再構築に集中し、クライエントのナラティヴに寄り添い、場合によっては再構成を促すことが求められているのです。
⑤描写から構築へ
従来のアプローチでは、クライエントにとっての一つの状態性が客観的に存在するという前提に立って、それをいかに描き出してクライエントに提示するかが求められていました。
しかし、そうした唯一無二の正解というものを前提に捉えることは現実にはそぐわなくなってきています。むしろ多面的なパターンが存在することを捉えてクライエントにとっての物語を一緒に構築することが必要になってきているのです。
現代のキャリア論の四つのポイント
こうした従来のキャリア論からのパラダイムシフトを踏まえて、現代におけるキャリア論のポイントを四つに絞って解説しています。具体的には、①生涯を通じたものであること、②仕事だけではなく生活を含めた包括的であること、③コンテクスト重視であること、④問題解決的ではなく予防的であること、が挙げられています。
介入のための六つのステップ
四つのポイントを踏まえて、本論文では最後に一般的なクライエントへの介入の六つのステップが挙げられています。
まず、クライエントがカウンセラーに望んでいることを明確にし、そこに向けて抱えている問題点を定義することが必要です。次に、今に対するクライエントの主観的な認識のシステムを探究します。第三に、クライエントの認識の囚われを解放するために視野を拡げることを支援します。
四番目は、視野が広がった状態で新しい物語の中に現在認識している課題を置き直してみることを促すことです。第五のステップは、実際に試してみる活動内容を明確にして、実践してみることです。その上で、一回の介入ではなく、第六には短期と長期でのフォローアップを行うことが求められます。