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【読書メモ】漂う人の不安:『サビカス キャリア構成理論』(マーク・L・サビカス著)第6章
小説を読んでいると、幼少期からの生育環境や、職務に対する価値観、他者に対する想いなどが全く異なっていて共感しづらいと思っていても、不思議と読んでいて感動する瞬間が訪れることがたまにあります。サビカス先生が『サビカス キャリア構成理論』の第六章で取り上げている人物のキャリア・ケースは、私にとって共感しづらいものなのですが、最後まで物語を読んでいくと、素晴らしい小説を読んで得られる感動に近しい感覚を得られる稀有な読書経験でした。
関心(concern)という次元
本章で取り上げられるフレッドさんは、キャリア・アダプタビリティの下位次元の一つである関心が低い人物です。そのために将来について考えたり検討するということができず、そもそも着想をもてないようなのです。
このような人物のストーリーへのガイドとして、サビカス先生は関心(concern)という次元について、他の近しい概念を例示しながら解説しています。ちょっとマニアックな内容ですが、ご参照ください。
「キャリア関心」は、キャリア理論家が未来時間展望(Ginzberg, Ginsburg, Axelrad, & Herma, 1951)、計画性(Super & Overstreet, 1960)、予測(Tiedeman & O'Hara, 1963)、志向(Crites, 1978)、気付き(Harren, 1979)、熱望(Holland, 1985)などさまざまな用語で表現してきました。キャリア関心には、将来を見通す職業意識が含まれています。
元々の心理的資源の低さ
フレッドさんは、なかなか大変そうな幼少期から青年期を過ごしています。読んでいて、「あー、しんどいなぁ。。」と何度思ったことか。。こうした状態性をサビカス先生は、チャレンジするために必要な心理的な安全基地がなかったと解釈しています。
その結果、フレッドさんは、将来を見据えることなく現在のみを瞬間的に生きてきたというなかなかドライな解釈がされています。
フレッドは瞬間を生きているだけでした。将来についての関心、欲求を抑えるコントロール、環境が与える刺激に対する興味、計画を改善する自信などのアダプタビリティ資源を発達させることがなかったのです。フレッドはキャリアの可能性には目を向けず、日常生活の中でただ傷つかないことを選択しました。
キャリア・アダプタビリティの四つの下位次元全てが低かったという解釈は、読んでいてなかなか辛いものがあります。
後天的に開発できる資源
しかし、この物語は(あえて言えば)最後はハッピーエンドで終わります。職務を通じて自らを開発するという以下のような現在の職務でのエピソードが最後に語られるのです。
フレッドは、かつて受動的に苦しんだことを能動的に習得し、苦悩を自分の長所に変えます。子ども時代、覇気のない父親と近寄りがたい母親は、彼と絆をつくることや成長を促すことに失敗しましたが、今、フレッドは高齢の患者に絆を感じ、子どものときに切望した養育と、思春期に得られなかった指導と安心感を彼らに与えています。彼は自身が出会うことのできなかった、養育的な人物となったのです。
社会的な成功者の英雄譚も面白いものですが、普通の人にとって参考になる部分が非常に限られます。普通の人の、ささやかなキャリア開発にほっこりできるようなフレッドさんのケースは、味わい深いと感じました。