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【論文レビュー】人事管理施策とソーシャル・キャピタルの関係性とは?:西村 (2018)
企業組織が取り入れる人事管理施策は、個人のソーシャル・キャピタルにどのように影響するのでしょうか?両者の関係性と、ソーシャル・キャピタルが職場のパフォーマンスに与える影響についてまで検証された、西村先生の論文を今回は取り上げてみました。
西村孝史. (2018). ソーシャル・キャピタルの規定要因としての人事管理施策. 組織科学, 52(2), 33-46.
ソーシャル・キャピタル
本研究で鍵概念となっているソーシャル・キャピタルは多様な捉え方がある概念です。学部の頃にソーシャル・キャピタルに興味を持った時があって(理由は忘れました)、本を何冊か目を通したところ、意味合いや使われている文脈があまりバラバラで混乱したことがありました。
本論文では冒頭で以下のようにソーシャル・キャピタルを位置付けておられます。
本研究におけるソーシャル・キャピタルは,「他者から自発的な支援が得られる関係性」であり,主として私的財の側面を重視する(Lin, 2001;西村,2014).
このように個人が有するものとしてソーシャル・キャピタルを位置付けた上で、人事管理施策および職場業績との関連性を明らかにしているのが本研究の特徴と言えそうです。
ソーシャル・キャピタル→職場業績
まず、ソーシャル・キャピタルが影響を与えるものとして職場業績があることを明らかにしています。具体的には以下のように交差遅れ効果モデル(「交差遅延効果モデル」とも言います)を用いて因果関係を推定しています。
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つまり、個人のソーシャル・キャピタルを高めることによって、職場のメンバー間で支援を引き出し合うようになり、職場全体としてのパフォーマンスが向上する、という関係性があると考えられます。
人事管理施策→ソーシャル・キャピタル
他方、本論文では何がソーシャル・キャピタルに影響するか、についても検証しています。具体的には人事管理変数として①能力開発施策と②成果主義施策について以下のように変数を設定しています。
①能力開発施策
「会社全体や部門ごとに人材育成の仕組みが体系的に整備されている」「能力開発を目的とした計画的な異動や配置転換が行われている」「部門や職場での能力開発を積極的に支援している」「社外でも通用する能力や技能の習得を支援している」「能力と適性にあった人事配置が行われている」の5項目から構成されています。
②成果主義施策
「給与は仕事の難しさや成果を反映している」「評価の基準として年齢や勤続年数よりも成果を重視する」「昇進・昇格に差をつける時期を早める」の3項目から構成されています。
分析の結果として、①能力開発施策と②成果主義施策のそれぞれが、ソーシャル・キャピタルに有意な正の影響関係を有していることが検証されたとしています。
人事管理施策がソーシャル・キャピタルに影響を与えるということから、企業の人事部門における制度の企画や運用の大事さが指摘されていると言えます。特に、著者も書かれておられるように、個人主義を助長するかのように思われがちな成果主義施策もソーシャル・キャピタルに正の影響を与えることから、人事管理施策を工夫して取り入れることの重要性があると考えられます。
もっと学びたい方へ
ここまで自身の興味で本論文のごく一部に焦点を当てて書いてしまいました。人事施策と成果との関連については、企業で人事部門に勤めているとひしひしと感じる方も多いと思います。西村先生が本論文も含めて大変わかりやすく解説されている動画がcultibaseに上がっていますので、ご関心のある方はぜひご覧になってみてください!
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!