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【読書メモ】「『キャリア』という言葉の意味を教えてください」とそもそも論を問われた時に読み返したい書籍:『新版 キャリアの心理学』(渡辺三枝子編著)

研究が進んでいる領域では一つの概念について多種多様な定義がなされます。キャリアもその一つです。渡辺三枝子先生が編著された名著『新版 キャリアの心理学』では、キャリアに関する主要な概念を精緻に解説されています。さらに、序章ではキャリアとはどのような意味合いを持つ概念なのかについて説明してくださっています。そもそも論からキャリアについて学びたい方にとって最適なテキストです。

キャリアという概念が内包する4つの意味

渡辺先生をはじめとした名だたるキャリア研究者の方々が本書を著す上で議論されたであろう結果として、序章ではキャリアという概念は4つの意味を内包している、というように解説されています。

具体的には、①人と環境との相互作用の結果②時間的流れ③空間的広がり④個別性、の4つです。それぞれ以下でポイントを絞ってみていきます。なお、以下の引用箇所で提示しているページ数は第2版ではない『新版 キャリアの心理学』でのページとなりますことご承知おきください。

①人と環境との相互作用の結果

まず、キャリアという概念は職業(occupation)や職務(job)とは異なるものです。全く同じであれば、わざわざ新しい言葉として生まれませんので。その上で職業や職務といった環境との関係性として以下のように説明しています。

職業や職務の概念を排除するものではないが、キャリアは職業や職務への「個人の働きかけ(work)」に焦点を当てている。

p.13

環境が人に影響を与えるという点ももちろんありますが、人から環境へ働きかけるという影響関係がキャリアという言葉には内包され、それを以て人と環境との相互作用の結果という言葉で表しているようです。

②時間的流れ

二つ目の観点は時間軸です。

キャリアは、一時点での出来事や行為、あるいは現象を指す言葉でなく、必ず、「時間的流れ」「時の経過」が内包されていることは明らかである。

p.13

キャリアというものを考える場合には、過去を振り返ったり、将来を展望したりといった時間の流れがつきものです。言い方を変えれば、現在の状態にだけ閉じたものではなく時間的な流れが含まれた概念であるという意味合いと考えられます。

③空間的広がり

また、時間と共に空間に関する広がりもキャリアという概念には内包されています。

キャリアは、個人の関わる個々の行為一つひとつに焦点を当てているのではなく、個々人の関わる行為、仕事、働き、役割の相互関係性と、それらが繰り広げられる空間的(場)関係性と、空間と時間との関係から織り成される広がりに焦点を当てている言葉であることは明らかである。

p.14

キャリアは個人で完結するものではありません。職業や職務あるいはそれ以外の役割を遂行する上で、それぞれのフィールドに展開されるという空間的広がりがある概念であると解説されています。

④個別性

4つ目は個別性です。

 個別性(individuality)こそキャリアの概念を構成する不可欠で、もっとも重要な要素である。キャリアの定義のなかに散見される「個々人の独自な体験に限られる」とか「人によって異なるユニークさ」「個人がそれを追求することによってのみ存在する」「人が長期間にわたって抱く自己についての感覚から成る」などの表現からも明らかなように、キャリアは「個別性(固有性)」を内包している。

p.15

概念で括りながらも、その内実は人それぞれによって異なるというのがなかなか興味深いキャリアの意味合いであるといえそうです。

最後まで目を通していただき、ありがとうございました!


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