【論文レビュー】JD-R理論型ジョブ・クラフティングの尺度について。:Tims, Bakker & Derks(2012)
本論文は、JD-R理論を基にジョブ・クラフティング(以下JC)を再構成し、尺度化まで進めたものです。尺度を開発することでこれ以降のJCの定量分析の発展に貢献したという側面が大きいものの、JCが本来的に持っていた認識の変更という観点を削ったという点で現在でも決着していない議論を招いてもいます。いずれにしろ、JCを語る上では読み飛ばすわけにはいかない主要論文の一つと言えるでしょう。
Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of vocational behavior, 80(1), 173-186.
「JCが本来的に持っていた」という表現をしましたが、これはJCを定義して論文内で言及したWrzesniewskiさんとDuttonさんの2001年の論文を拠り所としています。というのも、同論文では職務をデザインする主体は働く個人側にあり、タスクの変更、関係性の変更、認識の変更という三つをJCを構成する次元であるとしているからです。
では本論文では、なぜ認識の変更が取り除かれることになったのでしょうか。
まず著者たちは、職務ストレスの軽減や健康度合いやエンゲージメントの向上が大事であるとしていて、それらを目的とした場合には、職務のサイズを小さくしたり関係性を変えることがJCの一部としてあるべきであると捉えています。
WrzesniewskiさんとDuttonさんも論文の中で職務を小さくしたり取り除くことには触れているものの、その後の研究ではインタビューでそうした事象を答えづらいという限界から明らかになってきていないと本論文では問題視しているのです。
こうした課題認識から、著者たちが着目したのがJD-R理論をJCに活用することです。JD-R理論では、組織からの職務の要求度合いと活用できる職務資源に着目し、ネガティヴな要素を削減してウェル・ビーイングを増進することにどのように繋げるかが扱われています。
JD-R理論をJDに活用し、尺度開発を行った結果が以下の図にまとまっています。因子分析の結果として、①構造的な職務資源の増進、②阻害的な職務要求の軽減、③社会的職務資源の増進、④チャレンジングな職務要求の増進、の四つの因子に分かれています。
ここまで述べた研究目的・対象範囲を設定した結果、職務を外的なものとして捉える実証主義的な要素が出てきたと考えられます。その評価については、研究の対象や目的によって異なるべきものでしょうからここでは触れませんが、見取り図として高尾先生の2019年の論文を扱ったものを以下に貼っておくので必要に応じてご笑覧くださいませ。