【読書メモ】組織と個人の心理的契約:服部泰宏著『組織行動論の考え方・使い方』[第9章]
私たちが企業と契約するものは契約書という形のあるものだけではありません。カタチはないけれども、組織と個人とが「約束を含む相互期待の総体」(177頁)として結ぶ契約を心理的契約と組織行動論では呼びます。
なぜ心理的契約が注目されるのか?
組織と個人との間では、入社時点で締結する労働契約や、期初ごとに合意する業績目標といった書面やシステム上で契約が形成されます。これだけではなぜ十分ではないのでしょうか?
著者によれば、心理的契約が注目され始めたのは、アメリカにおいては1980年代、日本では2000年代以降であり、これは不況により長期雇用の保障が不安定になった時代と重なるそうです。つまり、入社時点でなんとなく両者が抱いていた暗黙的な合意事項が、両者に悪意はなくとも変更せざるを得ない時に、心理的契約という概念が着目されるようになったというわけです。
心理的契約を深掘りする
では心理的契約の特徴とはなんでしょうか。エドガー・シャインは、心理的契約は入社時点などある一時点で合意形成されるものではなく、個人がある企業で働き続ける中で随時更新されるというダイナミックなプロセスの文脈の中で捉えました。組織も個人も、お互いにすり合わせ、更新し続けることが求められるわけです。
先述した通り、1980年代にアメリカで心理的契約が着目されるようになった時期に、Rousseau(1989)は心理的契約を「当該個人と他者との間の互恵的な交換について合意された項目や条件に関する個人の信念」(182頁)と定義しています。
興味深いのは、組織と個人との間には組織コミットメントや組織サポートといった結びつきの強さを前提とするものが組織行動論ではそれまで多くありましたが、心理的契約は「組織と個人の関係を両者の相互期待の具体的な中身の点から記述・説明する」という特徴を持った「ドライな概念である」ということでしょう(182-183頁)。
個人の信念という認識に関するものですので、最終的には個人の解釈によって、心理的契約に則っているのか反しているのかは判断されます。契約違反として解釈されると、職務満足、組織コミットメント、組織市民行動や業績などの低下、離職意思の上昇、実際の離職の発生といった、数々のネガティブな結果がもたらされると実証研究の結果では言われています。
個人としては納得できる概念でありつつ、企業側に立つとなかなかおっかない概念と言えそうです。
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