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リアリテイ・ショックと組織社会化:小山(2014)論文レビュー

本棚を眺めていると、たまに幸運な発見があります。

最近は組織文化や組織社会化に関心があって論文を渉猟しているのですが、何かの弾みでリアリティ・ショックも調べないとなと思い出しました。リアリティ・ショックと言えば、私の頭の中では修士時代にお世話になった小山健太さんです。本棚から小山さんの論文を探し出して読んでみると、そもそも組織社会化が題目になっているではありませんか!

小山健太(2014)「組織社会化におけるリアリティ・ショック後の認知プロセス」『人材育成研究』9(1), 33-52

この論文が雑誌に掲載される前に小山さんの学会発表で拝聴して感銘を受けた記憶があるのですが、働く個人の視点に立ったキャリア意識への興味が強かったため、論題の最初に出ているにも関わらず組織社会化という意識が低かったようです。先入観、恐るべし。

組織社会化とリアリティ・ショック

リアリティ・ショックとは、本論文ではシャインの定義を引いて「一方における自分の期待・夢と、他方における組織での仕事・組織に所属することが実際にどのようなものなのかのギャップ」としています。組織に対して抱いている期待と組織から要求されていると認識している期待とのギャップであるリアリティ・ショックは、組織社会化の過程で生じ、対応できない場合には離職行動にまで繋がることが指摘されています。

組織社会化がなされた結果として働く個人には何がもたらされるのでしょうか。本論文では、Van Maanen & Schein (1979)を引きながら、保守的役割志向変革的役割志向の二つが挙げられています。先行研究を踏まえた上での小山さんの問題意識は、変革的役割志向に関する実証研究が少ないことに向けられ、本論文では保守的役割志向と変革的役割志向に帰結するプロセスの質的な違いを明らかにすることが目的とされています。

変革的役割志向の現代的意義

そもそも、なぜ変革的役割志向に関する実証研究が少なかったのでしょうか。組織社会化論が盛んだったのは1980年代です。当時は、雇用が安定的で、仕事の予見性も高く、既存の役割を社員に当て嵌めていくことが合理的な経済状況でした。そのため、組織社会化によって保守的役割志向の獲得が求められ、研究の領域でも保守的役割志向に関するものがほとんどになっていたようです。

一方、現代は企業を取り巻く環境の変化が激しく、職務上の役割の変更が求められるケースが多い状況です。このような変化が当たり前の時代には、既存の役割とは異なり、働く個人が自主的に働きかけていく変革的役割志向が社員に求められるのではないかというのが小山さんの問題意識です。

第一階層:役割未受容状態タイプ

本論文では新卒入社三年目社員を対象として組織社会化のプロセスをインタビューによって明らかにされています。その上で、保守的役割志向と変革的役割志向には階層があることが指摘されています。

まず、最初の段階としてリアリティ・ショックの状態が続いているという役割未受容状態タイプが挙げられています。これはコーディングの妙が感じられます。というのも保守的役割志向でも変革的役割志向でもないという消去法で導出するのではなく、「業務を完遂するための上司等への報告・連絡・相談が不十分であること」という没コミュニケーションというコーディングを行い、このコードがある参加者を役割未受容状態にしています。これは、なるほど!と唸る絶妙なコーディングで勉強になりました。

第二階層:保守的役割志向タイプ

次の段階は保守的役割志向タイプです。入社前に抱いていた夢や期待と現実との間にギャップがあることを受け入れ、自身のキャリア観を一旦棚上げして、組織視点の役割義務を認識している状態です。

第一階層から第二階層に移るための組織社会化戦術として二つのコードが挙げられています。周囲から本人への働きかけに関するものとして職務指導が挙げられ、本人から周囲への矢印では職務上の相談が挙げられています。

ここで重要なのは、本人が認識しているかどうか、という点でしょう。つまり、職務指導が周囲からなされないという状況は想像しづらいと言えます。しかし、適切な指導であると本人が認識していなければ、職務指導が有効であったと気づけないのです。したがって、飛躍を承知で推察すると、直接的に業務に関する指導をすることと、それを本人に気づかせる内省支援行動も必要なのかもしれません。

第三階層:変革的役割志向タイプ

保守的役割志向の後に変革的役割志向タイプが第三階層として現れる、と明らかにしたことが本論文の画期の一つでしょう。会社からの期待と自身の期待とのギャップを受け入れた後に、自身の抱くキャリア観を再構築し、本人視点で働きがいを見出している状態です。

この第三階層へと促す組織社会化戦術も二つが明らかになっています。本人から周囲へのものとしては信頼関係に基づく支援であり、周囲から本人へのものは本人の成長課題に基づく支援が挙げられています。ここでも、第二階層へ至る組織社会化戦術の箇所で考察した通り、本人の気づきを促す周囲からの内省支援が必要なのではないでしょうか。

変革的役割志向はジョブ・クラフティングと繋がる!?

ここからは妄想です(笑)。変革的役割志向タイプは、本人が自分の視点で働きがいを見出している状態です。これを働きがいを自分自身で創り出す行動と捉えると、ジョブ・クラフティングと繋がるのではないでしょうか。

第二階層から第三階層への移行において、社員がどのような認識のプロセスを明らかにするとジョブ・クラフティングの要素が出てくるのではないかなと妄想するのですが、どうなのでしょう。自分事として、考えてみたいテーマです。


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