【論文レビュー】新入社員の組織社会化を促す上司・先輩・同僚の役割に関する先行研究:小川(2006)
社員が新しい職場に入った後、その組織社会化を促す主体を組織社会化エージェントと言います。「エージェント」というとカッコいい響きに感じるかもしれませんが、具体的には上司、先輩、同僚といった存在を指します。
スタッフ部門の人間は、制度やルールを万能と思い込みがちですが、Van Maanen & Schein(1979)は、形式的・制度的働きかけよりも職場における社員との相互作用の方が新入社員の組織社会化に影響を与えると前提しています。組織社会化エージェントは組織社会化にとって大事な存在であり、今回は小川先生の博論から組織社会化エージェントに関する先行研究を見ていきます。
上司、同僚、メンター(先輩)の順に見ていきましょう。
(1)上司
上司が新入社員の組織社会化に与える影響についてはたくさんのことがわかっています。
新入社員にとっての配属前の期待とのギャップが離職意図に影響することを上司との交換関係によって緩和する効果(Major et al. 1995)、職務を進める上で必要な種々の情報を多く伝達する効果(Morrison 1993)、上司の構造づくり(initiating structure)行動が役割明確性や職務遂行上の有能感を高める効果(Bauer & Green 1998)、配慮行動が受け入れ感を高める効果(Bauer & Green 1998)、などが挙げられ、上司が新入社員の組織社会化にはたす役割の大きさがわかります。
(2)同僚
上司に比べると果たす役割は相対的に小さいものになりますが、同僚も主要なエージェントの一つです。ここでの同僚はpeerの訳なので、特に同期のような存在を思い浮かべるとイメージに合うでしょう。
同僚が果たす効果は、上司からの組織社会化を補助する働きがある(Van Maanen 1976)のに加え、リアリティ・ショックの緩和効果(Van Maanen 1976)、同期間での心理的な支え合い(小川 2003)、といった効果が挙げられています。
(3)メンター
新入社員にメンターがつくケースもあり、日本企業では育成担当といった役割の方をイメージすれば良いでしょう。
メンターによる組織社会化の効果としては、入社一年後の組織ー個人適合(P-O fit)への影響(Chatman 1991)、組織領域に関する学習効果(Ostroff & Kozlowski 1993)が挙げられています。
キャリア自律の文脈で、自律を履き違えた議論も昨今では垣間見られます。新しく組織に入った社員に対して、周囲の組織社会化エージェントによる働きかけを支援するようなしかけを組織としては整えたいものです。
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