【読書メモ】アーギュメントをつくる:『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大著)
立教LDC時代からお世話になっている田中聡先生が、少し前にXで阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』について書かれていました。田中先生が勧められるのであればと読んでみたのですが、この本はすごいです!レポート、学位論文、学術論文、研究書を書くためのポイントが考え方から実践にまで落とし込まれています。著者も言及しているように学部生から読める内容でありながら、特に修士課程や博士課程でアカデミック・ライティングが必要な方にとっては必読の一冊と言えます。
誰でも学術論文は書ける
第1章に入る前の「はじめに」で著者は、学生が読んでいてとても勇気づけられる一節を書かれています。
知的好奇心と意欲さえあれば学術論文は書けると著者は断言されています。言い換えれば、中長期的に維持できる情熱があれば論文は書けるとのではないでしょうか。学部と異なり修士課程にはほぼ誰でも入れますし、入学時点をスナップショットで見れば知的好奇心も意欲もみなさんあるでしょう。そうでもなければ、特に社会人の人はわざわざ大学院なんて行かないでしょうから。
入学してから自他ともに納得できるレベルの学位論文を書き終えられるかどうかは、知的好奇心と意欲を安定的に長い時間一定レベル以上に保てるか、が鍵となります。学会発表や学術論文も多少の程度の差はありますが同様です。博士課程論文は未経験ですが、著者は同じものとして括っておられるのでその言葉を信じて取り組もうと思います。
アーギュメントとは何か
第1章だけではなく、本書を通じて著者はアーギュメントという言葉を多用されています。アーギュメントを理解するためにはまず論文とは何かから理解する必要があります。
極めて明瞭簡潔な定義です。実証研究の論文で言えば、仮説を提示してその仮説を定量的に検証する、ということですね。この主張がアーギュメント(argument)です。
「主張が正しいことを論証する文章」なので、論証なしに誰が聞いても自明な主張はアーギュメントではありません。反証可能性あるいは本書の言葉で言えば反論可能性があることがアーギュメントの必要条件であると言えます。
喧嘩と議論の違い
学校のレポートや学位論文であれば、採点者(すなわち先生)は学生のことをある程度は知っていて、少なくともそのプロセスを授業や論文指導を通じて理解しています。そのため、学生が提示するアーギュメントに対するフィードバックは(程度の差はありますが)共感的なものになるでしょう。
他方、学術論文の場合の読者は覆面のレフェリーであり、著者が誰かもわからなければその執筆プロセスなんて知り得ません。そのため、辛辣なコメントや時にはリジェクトの結果通知が著者に届き、その対応は心身ともにつらいものになります。
ただ、こうした印象はあくまでアーギュメントを提示した著者のものでしかありません。アカデミックな文章を読み評価する側の立場に立つと少し景色は異なります。
査読者は著者に対して喧嘩をふっかけてきているわけではありません。あくまで著者のアーギュメントがその論文の中で論証しきれているかどうかについてフィードバックを尽くしてくれているのであり、その目的は議論によって知の発展に貢献しようとするものです。
今後、学術論文の査読対応に前向きに取り組めるよう極めて明るく書きました。それほど拡大解釈はしていないように思えますが、いかがでしょうか。第2章についてはまた日を改めて書いてみます。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?