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【読書メモ】守る人の義務:『サビカス キャリア構成理論』(マーク・L・サビカス著)第4章

キャリアのケースって面白いですね。サビカス先生の『サビカス キャリア構成理論』の第四章は、第三章と同様にケースが紹介されていますが、タイプは全く異なります。個人的には全く共感できないキャリアの選択および開発を行っている方です。こういう方が身の回りにいても、興味をあまり持てない(私も興味を持たれない)ので対話しづらいと思えるため、書籍を通じてライフキャリアの理解を深められるのはありがたいです。

早期完成アイデンティティ

第四章に出てくる人物(ウィリアム)は、早期完成アイデンティティの持ち主であるとサビカス先生は結論づけています。これは、自身で自らの可能性を探究するのではなく、親から与えられたアイデンティティを早い時期に受け容れるタイプです。

家族から与えられたアイデンティティを受け容れる、親の期待に合わせて行動する、家族からの承認を求める、他人の意見を過大評価する、自身の評判を気にする、といった傾向がある、といった特徴を持っているとしています。そのため、学校活動においては勤勉で品行方正な生徒として認識され、先生から認められやすいようです。上記の傾向のいずれをも持たない私が、(少なくとも高校までは)先生と呼ばれる方々から全く評価されてこなかった理由がわかった気がします。

忙しい状態を好む

他者からの評価や自身の評判を気にすることは、翻ってウィリアムさんが他者と親密な付き合いをすることを阻害してきたようです。

高校、大学時代はほとんど友人もなく、その後の対人関係も、自分の説得力を証明し、問題を解決する程度の関係で満足していました。

200頁

自身の内側からくる目的に向けて行動するのではなく、他者から与えられた目標を達成しようとすることは、常に忙しくしていたいという欲求を生むようです。忙殺されていることで他者との密な関係を構築しなくても良いと思えるとともに、自分自身にも向き合わなくて良い状態性を作り上げることになります。その結果、問題解決志向が強くなったとサビカス先生は解説しています。

ただ、誤解してはならないのは、親による影響だけによってこのようになるわけではないという点です。ウィリアムさんは、自身のインタビューの言葉として、自身は「できることは何でもやる」タイプであるのに対して、弟は「やりたいことをやる」タイプであるとしています(201頁)。どうやら、私はウィリアムさんの弟と話が合いそうです。

キャリア・アダプタビリティとの関連性

こうしたタイプであるウィリアムさんをサビカス先生はキャリア・アダプタビリティでどのように解釈しているのでしょうか。

キャリア構成理論(Savickas, 2013)において、アダプタビリティは、個人が目標を選択する方法、前方向(未来)に目を配るのか、それとも周囲に目を配るのかに注目します。(中略)ウィリアムは、これらの資源(引用者注:関心・統制・好奇心・自信)を、自己の可能性と職業の選択を広く探求するために使うのではなく、与えられた職業の選択肢と親から得たアイデアを深く探求するために使いました

192-193頁

キャリア・アダプタビリティの下位次元である四つの心理的資源を、このように活用するあり方もあるのだなと理解しました。キャリアはライフと密接に関連する概念のため、どうしても自身の価値観を概念に投影して拡大解釈してしまいがちです。ケースから学ぶことは、自分のものの見方の枠組みを一旦外すという効用があるのかもしれません。


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