
【読書メモ】研究することの意義:『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大著)
阿部幸大さんの『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の第9章のタイトルは「研究と世界をつなぐ」です。第8章までがアカデミック・ライティングの基礎編で、第9章からは発展編という位置付けとしています。第9章では、なぜ論文を世に出すのか、なぜ研究するのか、といった研究の意義に焦点が当たっています。
論文は手段である!?
本章は若手研究者に向けた著者からのメッセージのように読めます。査読を通すのに四苦八苦している身からするとだいぶ遠い世界のように感じますが、「研究者なら論文など書けてあたりまえ」(p.180)という強烈な言葉の後に以下のように続けておられます。
研究は、論文が実力的には書けるようになったあとこそが勝負なのであり、もしその前段階でつまずいているのなら、小手先のテクニックでもなんでもいいから、さっさとクリアして先に進んでしまうべきなのだ。というのも、本章と次章であきらかにするように、論文というのは究極的には手段にすぎないからである。
誤解なきように補足しますと、著者は、論文なんて書くのは簡単だ!とおっしゃっているわけではありません。何のために研究するのかという目的を大事にした上で、それを公に問うために論文という手段を用いる、ということを述べておられるのだと読み取れます。
査読論文を書くことは研究者の仕事の一つなのでそれができるようになることは必要不可欠ですが、研究という大目的にこそ焦点を当てましょう、というメッセージです。必要不可欠な部分についてはさっさとできるようになればよく、そのために第1章から第8章までがある、という位置付けです。
研究の意義
では何のために研究者は研究するのでしょうか。著者は、人文系での論文を前提に書かれていて、理系ではない人文系の大学院へ懐疑的な眼差しが向きがちな昨今の日本社会を想定してのメッセージと考えられます。著者が考える人文系の研究の意義には二つあるとして以下のように端的に述べています。
研究が世の中の利益になる方法は、すくなくともふたつある。第一に、世の中を良くすること。第二に、世の中を悪くなくすることである。
シンプルですがよくよく噛み締めたい重いお言葉です。
自問自答
私がなんとなくフィールドにしている経営学(?)も、ごくごく特殊な領域を除いて人文系に位置付けられるので自分事として考えようとしていたら、著者は以下のようなメッセージを章の最後で投げかけてくれています。
あなたが取り組んでいる研究の究極目的はなんなのか。なぜあなたは種々のサポートを受けながら、いまその研究に従事していてよいのか。あなたも同じ問いに向き合って、じぶん自身の回答を見つけだしてほしい。その答えは、あなたの研究者人生を、生涯にわたって支えつづける精神的支柱となるだろう。
自問自答し続けることが大事なのですね。厳しく考え続けるというイメージではなく、論文を書いたり査読対応をすることはなかなか辛い部分もあるので、大目的を自問自答することで意義を持って目の前の論文に取り組む、というようにポジティヴにとらえたいと思います。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました!