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【論文レビュー】組織社会化を内容で捉えた研究群の先行研究:小川(2006)

先日は小川先生の博論から、組織社会化をプロセスで捉えた先行研究についてみました。改めて文字にしてみると、マニアックなことをしてますね、私。さらにマニアックに行きますと、組織社会化研究の先行研究では、プロセスで捉えるものと内容で捉えるものとがあり、今回は後者である内容理論についてまとめてみます。

小川憲彦. (2006). 組織における社会化過程と個人化行動に関する理論的・実証的研究. 神戸大学大学院 経営学研究科 博士課程論文.

過程理論と内容理論

プロセスに着目した過程理論は、新しい組織に入った個人がどのように学び変化するのかに焦点を置いてきたもので、コンセプチュアルな研究ばかりで実証研究が乏しいという評価があります。他方、内容理論は、個人が何を学びどのような状態に変化するのかに関心を置いているため、縦断調査による実証主義のアプローチが多い点が特徴です。

学習の四領域

先行研究を踏まえて小川先生は、新たに組織に入った社員が学習する領域は四つあるとしています。具体的には、①職務領域、②役割領域、③集団領域、④組織領域です。以下は、Ostroff & Kozlowski(1992)を基に小川先生がまとめた四つの説明です。

  1. 職務領域
    職務、任務、割り当て、優先順位、用具の使い方、ルーティンの処方など、職務の熟達と仕事の方法に関するもの

  2. 役割領域
    職権や責任の範囲、地位に応じた期待や適切な行動

  3. 集団領域
    同僚との相互作用の仕方、集団の規範や価値観、作業手段の規範構造など職場集団とうまくやっていくためのもの

  4. 組織領域
    組織内政治や権力、組織システムの価値前提、使命、リーダーシップのスライル、特別な言葉などに関する知識

尺度開発

実証研究を基にした組織社会化の尺度については、Chao et al.(1994)の六次元尺度Haueter et al.(2003)の三次元尺度とが主要なものとしてあります。小川先生は、Chao et al.(1994)の批判的検討を通じて開発されたHaueter et al.(2003)のNewcomer Socialization Questionnaire(NSQ)の方が、先述した四つの学習領域を統合したものであり軍配を上げています。

内容理論の限界と組織の個人化

内容理論は実証を重視したアプローチなのですが、それが故に短期的な成果変数に着目しすぎたというように小川先生は指摘しています。それがなぜまずいのかというと、キャリア発達的な観点が欠落してしまうためです。そのため、自己イメージに関する学習が抜け落ちてしまうという帰結に至っています。

そこで小川先生が着目したのが組織の個人化です。こちらは、Schein(1968)やVan Maanen & Schein(1979)にあるような革新(innovation)にあるような組織に変革をもたらす個人の成長という観点で描かれる概念のようです。本論文での着目点は組織の個人化なので、また後日扱うこともあるかもしれません。

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