【読書メモ】職業生活の心理的居場所感はどのように変容するのか(中村准子著):『働くひとの生涯発達心理学 M-GTAによるキャリア研究 vol.2』[第2章]
「会社に居場所がない」という感覚は、就職・転職や異動の直後に、程度の差はあっても、多くの人が経験するものなのではないでしょうか。本論文ではこうした感情を心理的居場所感という概念として表現し、どのように心理的居場所感が個人の中で変容するのかを明らかにしています。
尚、心理的居場所感は中村・岡田(2016)に基づいて本論文では以下のような定義で用いておられます。
まず結果図についてご覧ください。以下は、本論文の基となった中村・岡田(2019)の27頁の図を添付しています。ごく一部だけ異なりますが、以降の考察には影響しないと考えられます。
著者が考察している六つのポイントについて所感を書いてみます。
①心理的居場所感経験とアイデンティティとの関係
調査の結果、心理的居場所感は低下・喪失と上昇・獲得を何度も繰り返すものであることが明らかになりました。つまり、一度得られたらその後は安泰というわけでもないですし、一度失ったらおしまいということでもない、ということです。また、心理的居場所感の変容はアイデンティティの揺らぎや確立といった変容とも連動する側面もあるようです。
②心理的居場所感の低下・喪失と上昇・獲得プロセス
心理的居場所感は働く個人の精神的健康に影響を与えることが示唆されました。たとえば、心理的居場所感を喪失することでメンタルヘルス不全につながる可能性があるというプロセスも明確になっています。ただ、心理的居場所感の低下・喪失はネガティヴに作用するだけではなく、自己変容や職場への働きかけといったダイアナミックな動きにも影響することが明らかになったことも重要な示唆と言えるでしょう。
③心理的居場所感経験による心理的変容
心理的居場所感が変容すると、心理的居場所感に無自覚な状態から自覚するようになります。空気のように思っていたものが、上下動することでその形と質感を私たちは感覚できるようになるのでしょう。人事異動によって心理的居場所感が変容することは職業人生を通じて何度となくあることです。その際に、主体的に心理的居場所感を捉えている人ほど、心理的居場所感が揺らいでもコントロール感を持って危機的な状況を回避しやすいようです。
④心理的居場所感と相互に影響し合う要因とキャリア発達段階との関係
キャリア初期、中期、後期のそれぞれの段階において、心理的居場所感と自己意識や仕事との相互作用のあり方は変化することも明らかになっています。初期においては「働くことの探索」、中期は「職業人としての自己の実感と働く意味の探索」、後期は「自己と働く意味の統合へ」というように変容していることが表の下の部分から分かります。
⑤心理的居場所感と組織との関係性
個人が意識し、職務において経験するものは個人に閉じたものではありません。組織との関係性から心理的居場所感も変容することになります。組織との関係性に気づくことが社員の心理的居場所感に影響することも明らかになっています。
⑥職業生活以外の生活領域との関係
心理的居場所感は職業生活だけで変容するものではないことも明らかになり、具体的には生活領域とも関係することが明らかになりました。つまり、職業生活以外の場面において心理的居場所感が高まると、職業生活における心理的居場所感も高まる可能性があるという興味深い示唆も出ているのです。
おまけ
働く上での居場所感について、個人が主体的にどのように取り組めるのかについては花田先生の『「働く居場所」の作り方』という書籍が面白いと個人的には思っています。以前書いたnoteを以下に貼りますので、よろしければどうぞ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?